夏はガツンと肉中華
【外苑前・慈華】絹ごし豆腐をせん切りに!? 満漢全席にも名を連ねる極上のスープ、"文思豆腐(ウェンシィドウフ)"レシピ

【外苑前・慈華】絹ごし豆腐をせん切りに!? 満漢全席にも名を連ねる極上のスープ、"文思豆腐(ウェンシィドウフ)"レシピ

発売中のdancyu夏号「夏はガツンと肉中華」特集では、思わず息を呑むような美しさと、名店ならではの繊細で奥行きのある味わいが魅力的な“超絶技巧中華”を紹介!東京を代表する2軒の中国料理店に、レシピを教わりました。二品目は、本誌でも数度レシピを披露してくれた外苑前「慈華」の“文思豆腐”です。

中国料理の中でも“静”のおいしさに感銘を受けた

思わず息を呑む繊細な美しさ。透明感のあるスープに端正な渦描いて浮かぶのは、まるで絹糸のように細く精緻にせん切りされた絹ごし豆腐。見た目の優美さ同様、その味わいも滋味深く淡麗。この心を揺さぶる佳品が「文思豆腐」(ウェンシィドウフ)、江蘇省揚州の名菜の一つだ。

約300年も前に誕生したとされ、美食家として知られた清朝最盛期の皇帝・乾隆帝が、その清淡にして繊細な味を好んだところから満漢全席の献立にも加えられたという逸話も残る名品だ。ちなみに文思とは、この料理を考案したとされる江蘇省天寧寺の文思和尚の名にちなんでいる。その伝統の味を今に伝える料理人の一人が田村亮介氏。本誌でもおなじみの青山「慈華」のオーナーシェフだ。

オーナーシェフの田村亮介さん
オーナーシェフの田村亮介さん。22歳で西麻布「麻布長江」に入り、2006年には同店の料理長に就任、09年にはオーナーシェフに。19年、南青山に「慈華」を開店。

田村シェフによれば、「文思豆腐を初めて口にしたのは、今から20年ほど前。台湾での修業時代だった」そうで、神業のような豆腐の細やかさに驚くとともに、躍動的な料理が多い中国料理にもこうした“静”の料理があることに深く感銘を受けたという。その後、本場揚州にまで足を運び、文思豆腐を食べ歩いたものの「実際に手切りにしたものとは出会えませんでした」。それならば、と文献や舌の記憶を頼りに再現したというわけだ。

一瞬たじろぐ細かさだが、達成したときの昂揚感とその美味しさを思えばチャレンジしてみる価値は大! 大切なのは豆腐をカットするときのリズム感。そして絶えず水で濡らしつつ、包丁の重さで切ることだ。元は精進料理ゆえ、オリジナルの清湯は動物性食材を使わず干し椎茸などで旨味をつけていたそうだが、田村シェフは鶏と豚挽き肉のだしをベースに金華ハムや干し貝柱で旨味を補強。「淡白な豆腐を支える影の立役者がスープ」と、レストランにふさわしい奥行きのある味わいに昇華させている。スープと豆腐を繋ぐわずかなとろみ加減も絶妙。すべてが一体となって喉元をすり抜けていく。

スープ
れんげを入れるのが惜しいほどに美しい水面。口にすると、豆腐とスープの一体感に驚く。忍びよるような旨味は優しくも力強い。店ではコースの2品目にスープ料理として提供。

まさに唯一無二。味わうほどに、真の美味とは贅沢な素材を多用した豪奢な料理ばかりではないことに気づかされる。どこにでもある日常的な食材を使いながらも、卓越した技と信念でつくり上げるシンプルな一皿にこそ、料理の品格は宿るものなのだろう。

文思豆腐のつくり方

材料材料 (2人分)

絹ごし豆腐1/2丁(200g)
金華ハム10g(*1)
干し貝柱1個(*2)
ひとつまみ
清湯500ml(下記参照)
水溶き片栗粉大さじ2(*3)
ねぎ油適量(*4)
★ 清湯つくりやすい分量(※写真は4倍量)
鶏挽き肉…375g 豚挽き肉125g
紹興酒12ml
長ねぎ1本分(青い部分)
生姜1片
2L

*1 ない場合は、塩味の強くない生ハムで代用可。
*2 5倍量の水に入れて一日置く。店では調理する前に1~1時間30分ほど蒸す。
*3 水と片栗粉を1対1で合わせておく。
*4 胡麻油(白)250gに長ねぎ(青い部分、3cm幅に切る)80gを入れ、弱火で20分加熱し風味を移す。市販品でもOK。

清湯をつくる

1挽き肉を混ぜる

ボウルに鶏と豚の挽き肉を入れ、ほんの少しずつ水を加えながら練るようにして混ぜていく。一度にたくさん水を入れると挽き肉が細かくほぐれず、エキスが出にくくなるので気をつけたい。

挽き肉を混ぜる

2水を足していく

くっついている挽き肉を、手で一粒一粒ほぐすような感覚で練り混ぜながら水を足していく。ある程度まで挽き肉がほぐれてきたら、加える水の量を増やしていく。このときも絶えず混ぜていくこと。だんだんタプタプとした感触になってくる。

水を足していく
加える水は、徐々に増やしていく。

3紹興酒を加える

挽き肉がサラサラになり十分にほぐれたら、残りの水もすべて加える。この時点でドロッとした液体状になっている。紹興酒を加え、鍋に移して火にかける。

紹興酒を加える

4鍋に移して火にかける

沸いてくるまでは強火で。鍋の縁などについた挽き肉は焦げやすいので、こそぐ。底も焦げつきやすいので、底からすくい上げるようにしっかりと混ぜ、常に対流させておく。

鍋に移して火にかける

5中火で煮込む

沸いてきたら中火にし、アクや脂分をすくいながらさらに煮込む。挽き肉のクリアな旨味を抽出するイメージ。

中火で煮込む

6ねぎと生姜を加える

挽き肉が浮いてきて、スープが見えるようになってきたら、ねぎと生姜を加える。挽き肉でスープに蓋をしてしまわないように、時折軽く混ぜて散らしながら加熱する。表面に蓋がされるとスープが濁ってしまうからだ。このとき、スープの表面がふつふつと静かに泡立つくらいの火加減もポイント。

ねぎと生姜を加える

7スープを漉す

1時間ほど静かに煮込み、スープが澄んでくればOKだ。漉し網にキッチンペーパーなどを敷き、静かに漉す。「残った肉はまかないです。肉味噌にも、ハンバーグにも、キーマカレーにも使えますよ」と田村さん。

豆腐を切る

8豆腐の高さを半分にする

豆腐は、まず端をカットして包丁の長さに切り揃える。次に横半分に切り、高さを低くする。高いまま切ると崩れやすいからだ。

豆腐の高さを半分にする

9包丁と豆腐を水で濡らす

⑧の豆腐の片方を、約1mmにスライスしていく。そのために包丁と豆腐を水で濡らしておくこと。こうすることで、包丁に豆腐がつきにくくなり、崩さずにスライスしやすくなる。

包丁と豆腐を水で濡らす
包丁と豆腐はこまめに濡らすこと!

10豆腐をスライスする

蕎麦切りのように手を少しずつずらしながら切っていく。時折、包丁と豆腐を水で濡らすことを忘れずに。また、切る際は、慎重にしつつも思い切りが大切。恐る恐る切るとかえって崩れやすい。

豆腐をスライスする

11豆腐を平たく揃え、せん切りにする

薄切りが終わったら、なるべく平らに揃えていく。こうすることで、より切りやすくなる。いよいよ細切りに。こちらも1mmを目安に、慎重かつ大胆に切っていく。包丁の重さで切るような感覚で行なうと疲れない。

豆腐を平たく揃え、せん切りにする

12豆腐を水にさらす

切った豆腐は水を張ったボウルに入れておく。同じように、もう片方の豆腐を切っていく。ここからの作業はすべて慎重に、丁寧にを心がける。

豆腐を水にさらす
水にさらして固まらないようにする。

仕上げる

13具材を細かくする

戻しておいた干し貝柱はほぐし、金華ハムは豆腐と同じ細さに切っておく。

具材を細かくする

14スープをつくる

⑦の清湯を中火にかけ、⑬と塩を入れてスープをつくる。

15塩を調整する

沸いてきたら弱火にし、1分ほど煮る。味をみて、足りなければ塩を入れ、調整する。この後、とろみをつけて豆腐を入れるので、気持ち塩を強めにしておくとよい。

16とろみをつける

火を少し強め、スープをゆっくりと混ぜながら水溶き片栗粉を少しずつ入れ、とろみをつける。豆腐から水分が出ることも計算して、少し強めにとろみをつけておく。十分にとろみがついたら、火を止める。

とろみをつける

17豆腐に湯をかける

⑫の豆腐を漉し網にあけ、水気を十分にきった後、優しく湯(材料外)をかけて豆腐臭さを抜く。

豆腐に湯をかける
豆腐に合わせて、とろみは少し強めにつける。

18豆腐をスープに入れ、完成へ

湯をしっかりときり、漉し網からスープにすべり入れ、箸で優しく円を描くようにほぐす。中火にかけ、沸いたら火を止める。香りづけに、ねぎ油を回しかける。碗に盛り、箸で優しく渦を描くように静かに混ぜる。

豆腐に湯をかける
混ぜるときは、一定の方向に。

店舗情報店舗情報

慈華
  • 【住所】東京都港区南青山2‐14‐15 AOYAMA FUSION Bldg.2階
  • 【電話番号】03‐3796‐7835
  • 【営業時間】12:00~15:0(閉店)、18:00~22:30(閉店)
  • 【定休日】月曜 他に不定休あり
  • 【アクセス】東京メトロ「外苑前駅」より3分
26年夏号「夏はガツンと肉中華」
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A4変型判(160頁)
2026年6月5日発売/1,500円(税込)

文:森脇慶子 撮影:合田昌弘

森脇 慶子

森脇 慶子 (ライター)

高校時代、ケーキ屋巡りとケーキづくりにハマってから食べ歩きが習慣となり、初代アンノン族に。大学卒業後、サンケイリビング新聞社で働き始めたものの、早々に辞めて、23歳でフリーとなり、食専門のライターとして今に至る。美味しいものには目がなく、中でも鮎、フカヒレ、蕎麦、スープをこよなく愛している。

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