畑と(日本)ワイン。――土と生きる、新時代の造り手たち
畑での仕事は、ほんのわずかな作業にも意味がある|「テールドシエル」桒原一斗さん【vol.3】

畑での仕事は、ほんのわずかな作業にも意味がある|「テールドシエル」桒原一斗さん【vol.3】

新時代の日本のワイン造りの最前線を、ワインジャーナリストの鹿取みゆきさんが追う新連載。 彗星の如く現れ、煌めくシャルドネでワインラバーたちを虜にした長野・小諸「テールドシエル」桒原一斗さんに密着した最終回。 桒原さんが一番大切にしている畑での作業、そして、日本に根付こうとしている新たなワイン産地の未来とは。 ※この連載はdancyu本誌にもダイジェストを掲載しています。

畑での仕事は、ほんのわずかな作業にも意味がある

葡萄のみからワインを造りたい桒原さんが、何より大切にしているのが畑の作業だ。
斜面の畑は大きく2つの場所に分かれており、合計面積は現在、約3,3ha。
葡萄の枝を切り戻したり、伸びていく方向を定めたり、枝を整理したりという葡萄の管理、土壌や下草の管理などの作業は基本的に一人でやってきた。

葡萄栽培歴は19年間という経験はあるが、この広さの、しかも斜面の畑を一人で管理することは容易いことではない。
効率を求めて作業をマニュアル化はせずに、畑に身を置き、畑に吹く風、葡萄に注がれる陽光を体で感じながら、一つひとつの葡萄を見て、じっくり考えながら作業を進める。
ほんの僅かな作業にも理由があるからだ。

たとえば葡萄をハサミで切る作業でも感受性を研ぎ澄まし、その感触を大事にする。もしも枝が弱いと思ったら、残す芽を減らして葡萄樹への負担を減らしてやるのです。

葡萄が根を下ろす土の状態にも気を配る。土を踏み固めないようにトラクターの使用を年に1回に限定。さらには、土の中の微生物の層を壊さずに、酸素を入れ込むため、春には、土の表面を刃のようなものでひっかく作業も欠かさない。

こうした仕事の積み重ねによって、畑にも変化が生まれた。
4年前に訪問したときに比べると、葡萄の葉は生き生きとして張りがあり、病気も減った。桒原さん自身、昨年、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、そしてピノノワールなどの葡萄を収穫した際に手応えを感じたという。

誘引作業
枝を切り戻す冬の剪定に引き続き、早春の芽吹き前後には、剪定した枝をワイヤーに固定する誘引という作業をする。来るべきシーズンに枝が伸びていく方向、樹液の流れなどを決め る大切なステップだ。
切り口
土の中の温度が上がってくると、根がそれを感知して、樹液が動き出す。そして切り戻した剪定の切り口からポロッとこぼれ落ちる。「葡萄の涙」だ。切り口のきれいなグリーン色は、前シーズンに十分に光合成ができた証。
粘土質の固い土壌だったが、土中に空気を送り込む、トラクターの使用を1回だけに制限、下草を生やすなど、畑での取り組みの効果が出ている。土中には団粒構造が生まれ、水はけの良さが改善されてきた。

ワイン造りの真髄とは何か、ずっと問いかけ続けている

私が初めて桒原さんと出会ったのは16年ほど前に遡る。
ココ・ファームで葡萄栽培に携わるようになって2年目、彼は26歳だった。少年のような面影を残しながら、先輩や大御所とも言える造り手に臆することなく次々と質問を投げかける姿を今でも鮮明に覚えている。
そんな彼も今や41歳。
畑や蔵でワイン造りを語る言葉、そして佇まいからは信念が滲み出る。振り返ってみると沸々と湧いてくる数々の疑問をそのままにせず、他者や自分自身に問いかけることを続け、考え続けてきたから、今の彼があるのだと納得できる。

コンクリートタンクと桒原さん
フランスから取り寄せた卵型のコンクリートタンク。卵型で対流が起きやすく、熱伝導率が低いコンクリート製ゆえに発酵温度も保てる。そのため、野生酵母も順調に発酵を終わらせる。桒原さんは「生命は球体から生まれる」と何度も口にする。タンクの中では、来年1月発売予定のソ―ヴィニヨンブラン)が熟成を続ける。

桒原さんは、来年、畑を4haに拡大する。
フランスのジュラ地方原産の品種のサヴャニャンなども植える。将来、これらの品種から生まれるワインにも期待が膨らむ。またエッグタンクと呼ばれる卵型のコンクリートタンクを取り入れて、野生酵母がより働きやすい環境でのワイン造りにも挑戦している。

さらに、糠地一帯で葡萄を育てる他の造り手たちからの委託醸造も引き受け、地域のワイン造りへの支援も惜しまない。

造り手はワイン造りの真髄をずっと追い続けている

と桒原さんは語る。
これからも、畑に立ち返りつつ、ワイン造りでさらに高みを目指し、糠地という土地のワイン造りの核となっていくに違いない。

桒原一斗(テールドシエル 栽培・醸造責任者)

くわばら・かずと●1981年生まれ。2004年にココ・ファーム・ワイナリーに入社、長く栽培担当を務める。20年、ココ・ファームで知り合った妻の亜也子さんの父が営むテールドシエルに入社、現職に。

文:鹿取みゆき 撮影:木村文吾

地元のワインが飲める長野のレストラン

クロワサンス croissance 長野・佐久平 

信州の野菜、肉、魚などの食材を供す、ファーム・トゥ・テーブルのフレンチレストラン。 主人の青木丈さん自身も小諸出身で、軽井沢の万平ホテルなどの名リゾートで腕を磨いた。ワインは希少な日本ワインを数多く揃え、中でも長野産ワインの品揃えは格別。信州のテロワールを、食材とワインのマリアージュで満喫できる唯一無二の拠点となっている。リーズナブルな価格にも心意気を感じる。

●2019年2月21日オープン。コースは、ランチ3,300円〜、ディナー4,400円。日本ワインは、グラス8種類あり500円〜。ボトルは4,000円〜。https://www.instagram.com/croissance_221/

料理
店主
店内

店舗情報店舗情報

クロワサンス croissance
  • 【住所】長野県佐久市佐久平駅南10‐2 永存第一ビル 2F
  • 【電話番号】0267‐88‐5085
  • 【営業時間】11:30〜13:30(L.O.) 18:00〜20:30(L.O.)
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】JR佐久平駅よりすぐ

チッタ スロー Citta Slow 長野・小諸

北国(ほっこく)街道という古い街道沿いの、築100年の土蔵をリノベーションしたピッツェリア。主人の市川貴廣さん・未苗さん夫妻は、アドリア海に面したリミニという小さなイタリアの海辺の街の、地元の人たちが集う食堂の味と雰囲気に惚れ込み、通うこと10年。もっちりとした全粒粉のピザ生地に、なんでものせて焼き上げるおおらかなスタイルのイタリアの田舎のピザを再現している。地産地消が基本、長野ワインも多数あり。

●2020年オープン。ピザはマリナーラ1,100円〜。日本ワインはボトルのみ。テールドシエルのワインは2023年のリリースより取り扱い開始予定。https://www.instagram.com/cittaslow.komoro/

料理
店主夫妻
外観

店舗情報店舗情報

チッタ スロー Citta Slow
  • 【住所】長野県小諸市与良町1‐1‐2
  • 【電話番号】0267‐27‐0599
  • 【営業時間】11:30〜14:30(L.O.)、17:30〜21:00(L.O.)
  • 【定休日】火曜 水曜
  • 【アクセス】しなの鉄道「小諸駅」より15分
鹿取 みゆき

鹿取 みゆき (フード&ワインジャーナリスト)

かれこれ20年前に始まった新しい日本ワインのシーンに寄り添い、造り手たちとともに現在の姿まで築いてきた。人呼んで“日本ワインの母”。近年、日本における持続的なワイン造りのため、(一社)日本ワインブドウ栽培協会を設立。著書に『日本ワイン99本』(プレジデント社・共著)、『日本ワインガイド』(虹有社)など。