ワインジャーナリストの鹿取みゆきさんが、新時代の日本のワインづくりの最前線を追っていく連載です。今回は、北海道・空知地方で“フィールドブレンド”のワインを造る「ナカザワヴィンヤード」中澤一行さん、由紀子さんを取り上げます。 ※dancyu本誌とオンラインのW連載です。
「クリサワブラン」の2006年物を飲んだ時の驚きを、今でも鮮明に覚えている。柑橘、ライチ、花、青い草と、口中で入れ替わりに立ち上る芳しい香り。そして伸びやかな酸に支えられた、瑞々しくも厚みのある果実味。そして長い、長い余韻。一口飲んで魅了された。北海道でこんな美味しいワインができるのかと驚いた。初リリースの2006年ものを飲んでから、すでに16年が経つが、今も飲む度に感動に満たされる。
このワインを造っているのは、北海道空知地方栗沢町のナカザワヴィンヤードの中澤一行さんと由紀子さん。2人はこの地に畑を拓き、葡萄を育て、ワインを造り続けてきた。
クリサワブランは、畑の15品種全てが原料になっているが主要品種は4つ。これら4品種は、夫妻が畑を開園した時に植えた。
トップの華やかさを与えてくれるゲヴュルツトラミネール、ほのかな苦味と酸のピノ・グリ、ニュートラルな味わいのケルナー、後半の骨太な酸を加えるシルヴァネールという4品種です。年によっては、ワインに厚みをもたらしてくれるピノ・ノワールが加わることもあります
と一行さんはいう。
1枚続きの畑で収穫した4~5種類以上のブドウを一つのタンクや樽に入れて一緒に発酵させる「フィールドブレンド」というワイン造りは、近年、世界中でも取り入れられるようになっている。とりわけ有名なのは、オーストリア・ウイーンのワイン“ゲミシュターサッツ”だ。
そして今、日本でも、北海道を中心に多くの造り手たちがフィールドブレンドでワインを造るようになっている。それぞれの品種を別々に発酵させてワインにしてからブレンドする場合には、ある味わいを目指す造り手の意図がそのまま当然ながら強く反映される。しかしフィールドブレンドではそうではない。その年の気候のもと、その畑で育った葡萄がそのままワインに映し出される。またその土地の土壌も然りだ。
今でこそ日本で市民権を得た感があるフィールドブレンドだが、中澤さんたちが初めてクリサワブランを造った頃は前例は皆無。初仕込みの2005年には、それぞれの品種ごとのワインを造ることを考えていた。しかしその年の収穫量は今ひとつ。別々に瓶詰めするには量が足りず、背に腹はかえられずブレンドすることに。ところがどうして、ブレンドしたワインには複雑味も生まれ、フレーバーも多彩になった。
さらに2010年からは、畑で育った異なる品種を一緒に発酵させるという造りに切り替えた。北海道の気候は厳しく、それぞれ単品で出すほどの収量を安定して確保するのが難しいというのも理由の一つでもある。しかし何より、2人は、「その方が美味しいと思っていますし、香りも味わいもバランスが取りやすい」と考えている。
※厳密にはクリサワブランはフィールドブレンドの造りではない。フィールドブレンドでは、全てのブドウを同時に収穫しているが、中澤夫妻は、熟していると判断したブドウごとに収穫してプレス。そうして得た果汁をタンクに順次加えていく。
ナカザワヴィンヤード
【住所】北海道岩見沢市栗沢町加茂川140
【電話番号】非公開
文:鹿取みゆき 撮影:木村文吾