ワインジャーナリストの鹿取みゆきさんが、新時代の日本のワインづくりの最前線を追っていく連載です。今回は、「ナカザワヴィンヤード」中澤一行さん、由紀子さんが北海道・空知地方で葡萄を育てるに至った道程とは。 ※dancyu本誌とオンラインのW連載です。
東京都と千葉県出身の2人がなぜこの地で葡萄を育てることになったのだろうか?
「学生時代、なんの当てもなく、ふらっと旅をした北海道に惹かれてしまった」というのが北海道移住の理由だという中澤さん。
関東圏しか知らなかった自分には、土地の広さ、風景、そして出会った人の優しさなどすべてひっくるめて、日本離れした土地に思えました
一度は大手電機メーカーに就職するも、何時間もかけて職場と家を往復する都会での日々に疑問を感じ、移住への思いが強くなる。そして行き着いたのが「北海道で葡萄を育てる農業」だった。「初めは、葡萄を育てることは、北海道に移住するための手段だったとも言えます」と中澤さんは当時を振り返っている。
就職先は日本ワインの最大生産量を誇る、北海道ワイン。初めは空知地方の三笠市の栽培担当者として働き、数年後には農場長になった。そして2002年、独立して自分の畑で葡萄を育てるように。数年の栽培経験で三笠市、岩見沢市の可能性を感じ、この一帯で南斜面の土地を探し、栗沢町の牧草地に出会った。そこに畑を拓き、その前には家も建てた。
畑では化学肥料、除草剤には頼らず、化学農薬もできるだけ使わない。それだけではなく、堆肥を撒くとしても、土地の外のものを極力入れない堆肥を作り、外のものを持ち込まないことも心がけてきた。
出来る限り、自然に負荷をかけずに暮らしていきたいのです。ここにいる生き物にできるだけ迷惑をかけず、自分たちが生きる場所を与えてもらえればと思う
と中澤さんはいう。一枚続きの緩やかな斜面に広がる畑にはさまざまな昆虫、小動物が息づいている。
また品種の植え替えを一気にやることはせず、徐々に変えていく方法をとる。自分たちが植えた木は、責任を持って育てていきたいからだ。葡萄を育てる中澤さんの根底には、自然への尊敬と畏怖の念がいつもある。
開園から20年。岩見沢の栗沢を自らのワイン造りの土地に選んでよかったと中澤夫妻はいう。
気候条件は想定より厳しかったが、一方で、ワインは予想以上に、美味しいものができている。こうした手応えがあるので今まで続けてこられた
とも語る。
今も、道半ばだと中澤さんはいう。新しい品種の取り組み、剪定方法の改良など、取り込むべき課題に毎日、出会い、それに対する自分なりのやり方を見出していく。そして見出したものを次世代に伝えていく。こうした日々の繰り返しが楽しいという。
一行さんは1965年生まれ、東京都出身。1996年北海道ワインに就職し、北海道に移住。2002年岩見沢市に、妻の由紀子さんとナカザワヴィンヤードを開園。17年KONDOヴィンヤードの近藤良平さんらと栗澤ワインズを設立。
ナカザワヴィンヤード
【住所】北海道岩見沢市栗沢町加茂川140
【電話番号】非公開
文:鹿取みゆき 撮影:木村文吾