編集長・植野が2021年に“印象に残った10皿”
内幸町「レ・ストゥディ」の"フィデワ"

内幸町「レ・ストゥディ」の"フィデワ"

スペイン・カタルーニャ地方のパスタのパエリアは米のパスタよりも軽やかな食感で濃厚なスープがしっかり染みています。久しぶりに東京で出会ったそれは、本場よりも美味しかった!?

六皿目 内幸町「レ・ストゥディ」の“フィデワ”

僕は「自分は見たとおりスペイン人なので。厳密にはカタルーニャ人ですけどね」とよく言います。これは半分冗談ですが、半分は本気で「前世はカタルーニャ人だったのではないか」と思っています。というのは、カタルーニャ(スペイン北東部の州。州都はバルセロナ )の気候や街や料理が本当に好きで、死ぬ前に食べたいのはパン・コン・トマテなのです。

パン・コン・トマテ

これは軽くトーストしたバゲットに生のトマトをこすりつけてオリーブオイルをかけるだけのシンプルなものなのですが(生のにんにくをこすりつけたり、塩を軽くふるくともある)、本当に美味しい!同じ材料を使ってもつくる人によって味が異なるのも楽しい!硬くなったパンを美味しく食べるためのカタルーニャ地方の家庭の知恵だったのですが、レストランでも出されるようになり、いまではスペイン各地で食べられるようになったそうです。バルセロナのスーパーにはパン・コン・トマテ用のトマトが吊るされていたり……話が長くなるのでやめましょう。

フィデワ

このパン・コン・トマテの次くらいに好きなのがフィデアです。パエリアといえば米でつくるものが一般的ですが、これはカッペリーニのような細いパスタを1cm程度にカットしたものでつくるパスタのパエリアなのです。スープは魚介であったりイカ墨であったり、具も肉や魚介、野菜などをのせることもあるのですが、僕は素材の味が凝縮したスープだけでパスタを炊いたシンプルなタイプが好きです。米のパエリアよりも軽やかな食感でスープの旨味をたっぷり吸ったパスタは一本一本がしっかり美味しい! さらにアイオリソース(ニンニク入りマヨネーズソース。カタルーニャ人が大好きなソース)を添えて食べると最高です!

バルセロナで食べた時もとても美味しかったのですが、東京・内幸町にある「レ・ストゥディ」というモダンスパニッシュレストランで本場を上回る味わいのフィデワに出会いました。カタルーニャ出身のシェフ・ホセさんがセンスあふれる料理を提供する店です。ホセさんは古い友人で、パン・コン・トマテなど本当に美味しい料理をいろいろ教えてもらいました。

久しぶりに店を訪れ、ピンチョスやニンニクのスープなど洗練された料理をあれこれ食べた後に、出てきたのがフィデワ。ホセさんは魚介や鶏肉をたっぷり使った濃厚なソースを使っていて、口に入れると深い旨味が口中に広がります。パスタの適度にやさしい食感と相まって美味! 本場のレストランで食べたものより繊細で旨味が濃く、美味しかった!
コロナ禍でなかなかバルセロナに帰れません(?)が、東京でカタルーニャを、いやそれ以上の美味しさを堪能できました。

写真・文:植野広生