編集長・植野が2021年に“印象に残った10皿”
高田馬場「新屋敷」の"アジフライ"

高田馬場「新屋敷」の"アジフライ"

アジフライはシンプルな料理ですが、店やつくる人によって味わいはさまざまです。サクサク、ふわっ、しっとり…それぞれの個性がまた楽しいのですが、これまで出会ったことのない、新しい味わいのアジフライに出会いました。

八皿目 高田馬場「新屋敷」の“アジフライ”

長崎県松浦市はアジの水揚げ日本一で「アジフライの聖地」でもあるって知っていますか?実際に行ってみると、確かにあちこちの店で揚げ方やソースに工夫を凝らしたアジフライを提供しています(アジフライのモニュメントなどもあります)。店だけでなく、地元の方は自宅でもよく食べるそうです。そしてアジフライにはタルタルソースが基本。店だけでなく、家でアジフライを揚げるときにもタルタルもつくる人が“常識”だとか。さすが聖地!

アジフライの聖地をアピールする箸袋
アジフライのモニュメント

そんなアジフライの聖地をさらに盛り上げるために、松浦で「アジフライ会議」を開催しました。地元の方々と、「アジフライのよさ」「アジフライを美味しく食べる方法」「アジフライに合わせたいソース」「アジフライに合わせたい酒」などのテーマについて、真面目に議論したのです。

その会議に東京から参加したのが高田馬場の居酒屋「酒肴 新屋敷(あらやしき)」店主の池田隼人さん。実は、アジフライの名手として知られ、店でも松浦のアジを用いている池田さんが“聖地”でアジフライを揚げるために乗り込む、という話を事前に聞いたので、会議の前に「新屋敷」に食べに行ってみました。

アジフライ

いろいろなところでアジフライを食べてきて、“サクサク、ふわっ”“サクサク、しっとり”などのタイプには出会いましたが、池田さんのそれは、衣が軽く“サクッ”として、身は“ふわっ”と“しっとり”の間(というか、両方感じる)、揚げものとしての香ばしさ、魚としてのアジの香りや旨味を多重構造で味わえる、まったく新しい感覚でした。

全国のアジフライを食べ回り、下ごしらえや揚げ方を突き詰めている池田さんによると、「水分量をどうコントロールするかが最も重要なんです」とのこと。確かに、しっかり揚げているのに旨味がしっとり残るのはアジの状態を見極めて、水分量を調整しているからなのでしょう。

池田さんが揚げたアジフライは、“聖地”松浦の人たちも感動していました。
アジフライは奥が深いですね。

写真・文:植野広生