京野菜と湯葉を使った涼やかな一杯は、西麻布にあった──。dancyu2021年9月号「夏は蕎麦。」特集、「楚々として冷かけ」では、ここ数年でバリエーションがグッと広がった、冷かけ蕎麦の世界を紹介しています。そこで、本誌誌面で取り上げた店の中から、食べ逃せない名物冷かけをもう一品紹介します!
スッキリと冷えただしに、シャキッと歯切れの良い蕎麦。喉越しも涼やかな“冷かけ”は、猛暑の夏に嬉しいご馳走だろう。その冷かけを、バリエーション豊かに楽しませてくれるのが「蕎麦おさめ」だ。
今から3年前、独立を考えている時に食した在来蕎麦の奥深さに惹かれた店主の納剣児さん。以来、在来蕎麦一筋。常時14~15種の蕎麦を用意し、せいろ、玄挽き、粗挽きとタイプの異なる3種の蕎麦を、日々打ち分けている。
冷かけは、微粉で打つ喉越しの良いせいろの蕎麦で提供しているそうで、取材時は日本の蕎麦のルーツとも言われる長崎の対馬在来を使用。そのボディのある味わいを受け止めつつ、さらに豊かな味の広がりを楽しませてくれるのが、“賀茂茄子生湯葉冷かけそば”だ。
素揚げしてほんのり甘めに煮含めた賀茂茄子から滲み出る煮汁が、冷たいだしと程よく調和している。濃密な湯葉の旨味を伴って、蕎麦やだしとバランスよく拮抗する醍醐味は、また格別。本誌で紹介している、厚岸産大粒浅利そばに負けぬ、料理性の高い逸品だ。
文:森脇慶子 撮影:土居麻紀子