京都で飲みたい
「もしかしたら、やきもち?」と自分で思うことがある。

「もしかしたら、やきもち?」と自分で思うことがある。

開店からずっと通っていることもあって、私が一番の「ももてる」ファンだと思ってきた。けれども、そうは言ってられないくらい“ももてるラバー”が増えている。何がどう「美味しいのか」は、うまく語れないけれど、とにかく胃袋と心をつかまれる。「行ってみればわかるよ」と、最近の私はことさらに説明をしなくなった。

美味しいものはキレイ!そんな現実にぶちあたる。

みんなに「ももさん」「ももちゃん」と呼ばれて親しまれる店主の井上ももえさん。初対面でも、なんだか懐かしい甘えたくなる人なのだ。

菜の花はシャクッとしているし、牛すじはもっちりして脂が染み出る。有名料理店で修業をしたわけではないのに、なぜこれほどに料理の加減をわかっているのか。以前、そんな質問を真面目に投げかけたことがあった。
ももさんは「小さい頃から料理本が愛読書だった」と言った。お母さんが料理上手だったこともあるだろう。お正月にももさんのところで食べる黒豆は、お母さんの味。ふっくらとしてほの甘く。ずっと食べていたくなる。

「牛すじとネギの炒め物」650円。とろりと甘い汁がしみ出すねぎ、甘辛く脂の旨味があふれる牛すじ。ごまがパラパラとかかっていて、食感もいい。ビールでも焼酎でも、ハイボールでも。どんな酒も美味しくしてくれる一品。

「ももてる」の料理を見て私が感心することのひとつに、出で立ちのキレイさがある。炒め物もおひたしも、割烹の華やかさとは違う「美味しい風情」があるのだ。
心が浮き立つというよりも、お腹が騒ぐ。この感じにはなかなか出合えない。

箸置きもコースターも。乙女な可愛さがある。男前なんだけど女の子っぽいももさんの一面が垣間見える。角ハイボール700円。日本酒は一合950円~、グラスは650円~。

結局、ここはももさんが言うように「呑み屋」なんだろう。調子のいいときは、いつの間にかハイボールを5杯も6杯も。気立てのいいアルバイトの女子たちの笑顔も、お酒を進ませてくれる。私も常連のひとりだから、注文しなくても、酔い加減を見てお水をそっと出してくれる。上質なスナックに飲みに来た気分になる。
そういえば、いつだったか、遅い時間にみんなで「赤いスイートピー」を合唱したことがあった。本当に気持ち良かった。忘れられない。

「菜の花のサラダ 玉ねぎドレッシング」450円。緑と白のコントラストが美しい。玉ねぎが甘くてピリッとして。

以前に雑誌『dancyu』で「いい店ってなんだ?」という企画があり、私も書かせてもらったことがあった。そのときも、私が選んだのは「ももてる」だった。当時は、「私にとってのいい店」だと、思っていたはずだ。だけど最近、思うのは、いい店は「独り占めしたい」なんて欲張ってはいけないということだ。
ももさんが、誰にでも優しくしていると、ちょっとやきもちを焼いてしまうこともある。私のこともかまってほしいと思う。だけど、そんな浅はかな心根では「ももてるファン」は名乗れない。
ももさんが、この店で料理をつくりみんなを楽しませてくれる限り、もちろん私も通うし、多くの食いしん坊や呑み助に通ってほしい。
みんなで「ももてる」をわかち合いたい(笑)。

「ふらりと立ち寄って」と言いたいところだが、カウンター11席の店だから、できれば予約を。遅い時間なら立ち寄る前に電話を入れて。

店舗情報店舗情報

ももてる
  • 【住所】京都府京都市下京区綾小路堺町西入ル綾材木町197
  • 【電話番号】075‐344‐0238
  • 【営業時間】18:30~23:00
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】京都市営地下鉄「烏丸駅」より5分

文:中井シノブ 写真:ハリー中西

「もしかしたら、やきもち?」と自分で思うことがある。

中井 シノブ(編集者・ライター)

京都在住。情報雑誌の編集長を経てフリーの編集、ライターとして活動する。京都の飲食店取材は1万軒以上。趣味は外酒、外飯。著書に『京の一生もん』(紫紅社)、『京都女子酒場』(青幻社)、『奇跡のレシピ』(KADOKAWA)共著などがある。