開店からずっと通っていることもあって、私が一番の「ももてる」ファンだと思ってきた。けれども、そうは言ってられないくらい“ももてるラバー”が増えている。何がどう「美味しいのか」は、うまく語れないけれど、とにかく胃袋と心をつかまれる。「行ってみればわかるよ」と、最近の私はことさらに説明をしなくなった。
菜の花はシャクッとしているし、牛すじはもっちりして脂が染み出る。有名料理店で修業をしたわけではないのに、なぜこれほどに料理の加減をわかっているのか。以前、そんな質問を真面目に投げかけたことがあった。
ももさんは「小さい頃から料理本が愛読書だった」と言った。お母さんが料理上手だったこともあるだろう。お正月にももさんのところで食べる黒豆は、お母さんの味。ふっくらとしてほの甘く。ずっと食べていたくなる。
「ももてる」の料理を見て私が感心することのひとつに、出で立ちのキレイさがある。炒め物もおひたしも、割烹の華やかさとは違う「美味しい風情」があるのだ。
心が浮き立つというよりも、お腹が騒ぐ。この感じにはなかなか出合えない。
結局、ここはももさんが言うように「呑み屋」なんだろう。調子のいいときは、いつの間にかハイボールを5杯も6杯も。気立てのいいアルバイトの女子たちの笑顔も、お酒を進ませてくれる。私も常連のひとりだから、注文しなくても、酔い加減を見てお水をそっと出してくれる。上質なスナックに飲みに来た気分になる。
そういえば、いつだったか、遅い時間にみんなで「赤いスイートピー」を合唱したことがあった。本当に気持ち良かった。忘れられない。
以前に雑誌『dancyu』で「いい店ってなんだ?」という企画があり、私も書かせてもらったことがあった。そのときも、私が選んだのは「ももてる」だった。当時は、「私にとってのいい店」だと、思っていたはずだ。だけど最近、思うのは、いい店は「独り占めしたい」なんて欲張ってはいけないということだ。
ももさんが、誰にでも優しくしていると、ちょっとやきもちを焼いてしまうこともある。私のこともかまってほしいと思う。だけど、そんな浅はかな心根では「ももてるファン」は名乗れない。
ももさんが、この店で料理をつくりみんなを楽しませてくれる限り、もちろん私も通うし、多くの食いしん坊や呑み助に通ってほしい。
みんなで「ももてる」をわかち合いたい(笑)。
文:中井シノブ 写真:ハリー中西