京都で飲みたい
もしかしなくても、これからもずっと通い続ける鮨屋なのである。

もしかしなくても、これからもずっと通い続ける鮨屋なのである。

「東寿し」のある正面通は、本願寺の正面を通る道。周辺には、豊国神社や三十三間堂のほか東本願寺、智積院など寺社仏閣が点在する。街の中心地からは少し離れているが、それがまたいいのだと常連は言う。先日、訪ねたときに隣り合わせた客は、長崎からの旅人だった。京都へ来ることがあると、必ず「東寿し」を訪ねるそうだ。

もちろん、鮨だけでもOKです。

「赤貝」のにぎり
「赤貝」のにぎり500円。使う魚介類のほとんどが天然もの、なのにこの価格だからありがたい。

鮨好きの中には、「つまみはいらない。にぎりだけでいい」という人がいる。小料理屋のような「東寿し」でも、もちろんそれも大丈夫。

昼はにぎりのセットもあって、さくっとランチもできる。夜も「おまかせで十貫」なんていう鮨店らしい食べ方もできる。

ただ、私が見るところ、やっぱりここに来る客は料理も目当てという人が大半。なかには、料理を何品か食べて、鮨をつままずに帰る人もいる。というか、私も料理+鉄火巻だけで帰ったことがある。そんな不作法も許してくれる懐の深さが「東寿し」を人気店にした理由のひとつかもしれない。

充実の一品料理とお値打ち価格。だけど、それだけが「東寿し」の魅力ではない。常連客はもちろんのこと、初めての人もすぐに馴染めるのは、店主の山本勲さんの人柄だろう。
気さくで明るい、誰にも気軽に話しかけてくれる。

先日、私の隣で、シンガポールから来た親子3人が、目をキラキラさせながら鮨を食べていた。山本さんは、ひとつひとつの鮨を英語で説明しておられた。「英語話せるんですね!」と驚く私に、「外国の方も来てくださるから、ネタの説明だけは覚えたんです」とおっしゃった。いや、そのサービス精神ですよ!と思う。

「まぐろ」のにぎり
「まぐろ」のにぎり500円。江戸前鮨とは正式には言えないのでしょうが、ヅケもあるしこはだもある。どれもこれも新鮮でお値打ち。

言葉が通じない国で優しくされると、一挙にその国が好きになる。日本の方だってそれは同じ。初めての京都で、それも鮨屋で、「お造り盛り合わせは、何品くらいにしましょう?」「メニューにない日本酒もありますよ」なんて優しく言われたら、すぐにファンになる。

山本さんがそんな人だからか。息子の潤さんも本当に控えめで優しい。笑顔でない彼を見たことがない。ここに居る客はみんな笑っている。だから足が向く。

「鯛」のにぎり
ほどよく寝かせた「鯛」のにぎりも300円。ほんとうに、そんな値段でいいんですか?

ここに通い始めた当初から、山本さんは「うちは天然の魚しか使わない」とおっしゃっていた。「なのに、どうしてこんな値段?」とうかがうと、「こんな場所ですから。街中や祇園と同じような値段では、申し訳ない」と。さらに、もともとここが家だったから家賃もいらないのだと。

そんな姿勢や味は、ことさらにPRしなくても人を呼ぶ。特に京都は口コミの町だ。いつ行ってもほぼ満席。店が空いているのを見たことがない。
潤さんが加わってからは、「蟹グラタン」や「和牛の炙り」など新メニューも増え、それがまた評判になっている。ただし、新メニューは全体の1割程度。元からあるメニューを大切にしているから、「あれを食べたい」と思う客も安心なのだ。

「ウニ」のにぎり
「ウニ」のにぎり500円。ウニはその日によって淡路産だったり、北海道産だったりといろいろ。両方あるときは食べ比べも。

そういえば、最近「Uber eats」でも、「東寿し」のにぎりを注文できるようになった。忙しいときは、本当にありがたい。家で食べられるのだから。ただ、「一度頼んでみよう」と思いつつも、まだ注文したことがない。「東寿し」という文字を見た途端、「やっぱり行こう」と思ってしまうからだ。
どうせなら、「大将とのやりとりも楽しみたい」と、山本さんの顔が思い浮かぶ。

「車海老」のにぎり
「車海老」のにぎり500円~。水槽で泳いでいるのを焼いてもらうことも。

20年は相当長い付き合いだ。当時通っていた店でも、諸事情があっていまは行かなくなった店もあるから。
「東寿し」は、20年前もいまも変わらない。「東寿し」との関係はまったく変わらない。いつ行っても美味しい、いつ行っても笑顔。そんな店がひとつでもあれば人生は楽しくなるのだ。

店舗情報店舗情報

東寿し
  • 【住所】京都府京都市東山区正面通本町西入
  • 【電話番号】075-561-5471
  • 【営業時間】12時~21時30分(L.O.)
  • 【定休日】木曜、第3水曜
  • 【アクセス】京阪「七条駅」より5分

文:中井シノブ 写真:ハリー中西

中井 シノブ

中井 シノブ (編集者・ライター)

京都在住。情報雑誌の編集長を経てフリーの編集、ライターとして活動する。京都の飲食店取材は1万軒以上。趣味は外酒、外飯。著書に『京の一生もん』(紫紅社)、『京都女子酒場』(青幻社)、『奇跡のレシピ』(KADOKAWA)共著などがある。