京都で飲みたい
もしかしたら牛肉をもっと好きになるかもしれない。

もしかしたら牛肉をもっと好きになるかもしれない。

若い頃は肉料理といえば焼肉かステーキだった。それがいつ頃からだろうか。カルビやサーロインを食べたいと思っても、実際食べると「これ以上は無理かも……」と、途中で手が止まるようになった。もっともっとと思っても体がついていかない。だからというべきか。「肉が食べたい」と思うとき、あっさりするりと食べられる店があると、本当にありがたい。

カルビやサーロインにはない乙な味わい。

牛肉を食べるならホルモンよりロースやサーロインと思っていた。もちろん、いまもそれらは好きな肉。が、最近はより脂身の少ない内モモやランプを選ぶようになった。
もっと言うなら、タンやハツ(心臓)、ミノなど乙な旨味のあるホルモンが好きになっている。ロースもホルモンもさらりと食べたい。
そんな欲望を満たしてくれるのが「肉料理 澁谷」なのだ。お腹具合が許すなら、生3種、湯引きや煮込み、焼き料理といった13種ほどの料理をすべて注文したいくらい。

心臓(ハツ)の刺身1,000円。こちらもほかの肉と同様に特製タレとねぎ、辛子で味わう。

どんな順で食べるかはそれぞれの客の好みだが、お店のお薦めはやはり生から。心臓の生(刺身)は、脂分は少なく、だからといって硬さはない。コリコリというよりサクッとした歯ごたえ。さらっとして味わいある特製のタレがよく合う。
ホルモンはそれほど食べたことがないという人も、このあたりから始めればきっとホルモンが好きになる。クセも臭みもない淡泊さで、食感やほどよい旨味に魅せられる。

「肉料理 澁谷」のカウンターはわずか5席。予約必須のプレミア席だ。

カウンター席は上級者用と思われがちだが、実は初心者にこそ座ってほしい場所だ。何を食べるか、どんなふうに食べるかと迷ったらサービスの澁谷周子さんに相談してほしい。丁寧に説明してくれるうえ、好みも聞いて、それにあった料理を薦めてくれる。
この店のいちばんの魅力は料理の味ではあるが、それと同じくらい周子さんの親身なサービスもクセになる(笑)。一見でもまるで常連のように接してくれるのだ。

カイワレ巻2,000円。ロース肉でカイワレを巻いてさっと焼いたもの。

刺身(生)の後は、ミノの湯引きにカイワレ巻。極上のロース肉でカイワレを巻いた「カイワレ巻」は人気メニューのひとつだ。生でも食べられるロースだから、焼き加減は表面にちょっと色がつくくらいの超レア。焼けた肉と脂の香ばしいかおり、ぎゅっと噛みしめたときにあふれる肉汁、カイワレのシャキッとした食感と辛味もあわさってなんともいえない美味しさ。おもわず目を閉じ、そのバランスのいい味わいを少しでも長く感じたくなる。

タンシチュー2,000円は、定番ではなく運が良ければ出合えるメニュー。予約の際に確認を。

煮込み料理は、テール煮込みやテールの煮こごりが定番で、日によってタンシチューがメニューに並ぶ。私が訪ねた日は、運よくタンシチューがあった。とろけるような柔らかさ。よく食レポなどで「噛まなくてもいいくらい」という言葉を聞くけれど、誰かの言葉を借りるまでもなく、そう表現するのが適切で、まさにそんな感じ。デミグラスに味噌を加えたソースで5~6時間煮込んだタンは、自身の旨味を失うどころか、ソースにもほどよい脂を溶け込ませるから力強い。

店主の澁谷俊一さんが、優しい笑顔で迎えてくれる。わからないことがあれば、聞かなきゃソンである。

この店をひと言で表すなら、「おいしい肉料理店」というより、「澁谷さんの経験を味わえる店」といったほうがいいかもしれない。厳しい目で肉を選び、それぞれの部位に適した調理で食べさせる。メニューはシンプルだが、味わいはどこまでも深い。澁谷さんの歩んできた肉の道を辿らせていただいているかのよう。
料理を食べ進むほどに、「ありがたい」という気持ちがしみじみと心を満たすのだ。

店舗情報店舗情報

肉料理 澁谷
  • 【住所】京都府京都市中京区西革堂193-1
  • 【電話番号】075-221-8588
  • 【営業時間】17:00~22:00
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】京都市営地下鉄「京都市役所駅前」より5分

文:中井シノブ 写真:ハリー中西

もしかしたら牛肉をもっと好きになるかもしれない。

中井 シノブ(編集者・ライター)

京都在住。情報雑誌の編集長を経てフリーの編集、ライターとして活動する。京都の飲食店取材は1万軒以上。趣味は外酒、外飯。著書に『京の一生もん』(紫紅社)、『京都女子酒場』(青幻社)、『奇跡のレシピ』(KADOKAWA)共著などがある。