「四川家庭料理 中洞」の十皿
黒酢と辣油のサンラーメン|「四川家庭料理 中洞」の三皿目

黒酢と辣油のサンラーメン|「四川家庭料理 中洞」の三皿目

三皿目は黒酢と辣油のサンラーメン。中国語で「酸辣面」。酸辣湯麺とは違います。玉子も椎茸もきのこもトマトも入りません。とろみもありません。きっとあなたの想像を裏切るルックスの麺料理は、想像を超えるヤミツキ必至の味わいです。

黒酢と辣油がガツンときいた、キレッキレの麺。

「真っ黒で真っ赤。黒酢がガツンときいていて、辣油もしっかり入る。留学時代に食べて強烈な衝撃を受けた麺料理がモデルです」
「四川家庭料理 中洞」店主の中洞新司(なかほらしんじ)さんがそう振り返るのは、黒酢と辣油のサンラーメンである。

サンラーメン
夜は単品で972円。ランチはご飯、スープ、漬け物、デザート付きで1,050円。

独立前、中洞さんは四川省の成都へ赴き、現地の料理とともに語学も習得するために大学に通っていた。その大学の敷地内にあった「酸辣面」専門店の味が下地になっているという。
「まるで飾り気なんかなくて、簡単な小屋みたいな建物でおじさんがひとりでやっている店でした。なのに味わいはピカイチで!ひと口目のインパクトはあるのに、スッと消えていく魔法のような料理なんです」

具は挽き肉と軽くゆでたキャベツ、刻んだねぎのみ。
スープは鶏ガラでとっており、野菜の端材も一緒に入れている。にんにく、胡椒、中国醤油、黒酢、そして自家製の辣油が入る。
麺は、玉子もかんすいも入らないものを特注している。
舌ざわりはなめらかでふんにゃりと柔らかく、スープをよく吸う麺で、そうめんにも近い印象だ。たおやかに箸に絡む。

特注の麺
こちらがゆでる前の特注の麺。原料は小麦粉、水、塩のみ。
中洞さん
ゆで時間は短めで、するする舌ざわりのよい麺にゆで上がる。

酸味がいい。辛い。辛いけど旨い。麺と一緒に、ときおり口に入ってくる挽き肉が味に奥行きを与える。ゆでキャベツはつかの間の癒し。スープを飲む。麺をすする。酸味がいい。辛い。辛いけど旨い……と“サンラーメン・ループ”に陥っていく。

「日本でよく見かける、とろみのついた具だくさんの酸辣湯麺とは違うシンプルな麺です。想像とまるで違う麺が出てきて、一瞬、きょとんとされるお客さんもいらっしゃいますが、ハマる方はハマってしまうキレッキレの麺なんです。油もしっかり入っているのに、スープをすべて飲んでいかれる方も結構いらっしゃいますよ」

中洞さんが成都で受けた衝撃の味わいは、中洞さんの料理のひとつとなり、3400km以上離れた東京・巣鴨でも新鮮な衝撃を与えている。

スープはサラサラ。麺は白くたおやか。
シンプルでいて端正な美しさが漂う。
豪快にすすって一気呵成に食らうべし。

――明日につづく。

店舗情報店舗情報

四川家庭料理 中洞
  • 【住所】東京都文京区千石4‐43‐5
  • 【電話番号】03‐5981‐9494
  • 【営業時間】11:00~14:00(L.O.)、17:00~21:00(L.O.)
  • 【定休日】月曜(祝日の場合は火曜)
  • 【アクセス】JR・都営地下鉄「巣鴨駅」より7分

文:沼由美子 写真:森本菜穂子

沼 由美子

沼 由美子 (ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。