九皿目は唐辛子 肉そぼろ和え麺。中国語で「素椒雑醤面(スゥジャオザージャンメン)」。汁なし担々麺のようでいて、それとも違うすっきりした辛さにノックアウト!ふんにゃりコシのない麺はよーく混ぜるほどにたれが絡んで、旨くなる!食後感も軽やかです。
四川の麺料理は奥深い。微妙な違いの多種多彩な麺料理の世界が広がっている。麺はおもに小麦粉がベースで、玉子は多用しないのが特徴だという。
「四川家庭料理 中洞」店主の中洞新司(なかほらしんじ)さんは、語学と料理のために四川省に留学していたときは、ほぼ毎日麺料理を食べていた。「黒酢と辣油のサンラーメン」(三皿目で紹介)と共にはまったのが「素椒雑醤面(スゥジャオザージャンメン)」だった。
「肉みそ、唐辛子、山椒が入っているだけの超シンプルな麺で、毎日のように食べていました。汁なし担々麺ともニュアンスが違うんです。すっきり辛くて本当にクセになります」
食べ方のポイントは、よくよく混ぜること。
たれも肉そぼろもカシューナッツも、一体になるほどによく混ぜる。
中洞さんがこの料理を自分なりに再現するのに必要なのは、すっきり辛いたれに寄り添う麺だった。
麺は特注をすることにした。
「玉子もかん水も使わないそうめんのような麺が理想なんです。かん水を入れるとコシは出るんですが、アルカリ性の香り、いわゆるアンモニア臭も出てしまいます。僕は、ふんにゃり柔らかく、たれに寄り添ってくれる麺がよかったんです」
だから、麺の原材料は小麦粉、水、塩のみ。「黒酢と辣油のサンラーメン」で使っているものと同じだが、汁なしの和え麺なのにするすると入ってくるような軽やかさがある。
店に掲げられた品書きの黒板。その右端にさりげなく書かれているように、「中洞」では旨味調味料は使っていない。
「旨味調味料を入れることで劇的においしくなるなら、使ってもいいと思うんです。僕は、使わなくてもおいしいじゃん、と思えるものがつくれたので使っていないだけです。コクは自家製の調味料を使って出しています。後味もいいし、喉も乾きません。おまけにお金もかかりません」
最後に、中洞さんが「最後に、残ったたれにご飯を和えるのも好きなんです」と教えてくれた。
一滴も余さない。余したくない。
店主自身がそう思える麺料理なのだ。
――明日につづく。
文:沼由美子 写真:森本菜穂子