知られざるバーへ。
心に火を灯すレインボー|福井「ニュー淀」②

心に火を灯すレインボー|福井「ニュー淀」②

福井のオーセンティックバー「ニュー淀」。名物カクテル“火遊び”はその名のとおり、刺激とマスターの遊び心が詰まったカクテルだった。まだ夜は始まったばかり。次なる1杯は?

火を灯すのはマッチがいい。

マスターの嶋田修身さんによると、「ニュー淀」には火を使うカクテルがまだあると言う。
“火遊び”を生み出すよりも前から、いや、マスターが独立するよりも前からつくっているカクテルが“レインボー”だ。
スピリッツやリキュールの比重の違いを生かし、色を多層に重ねた美しいカクテルである。

マスターの嶋田修身さんは御年78歳。会話もキレキレです。
マスターの嶋田修身さんは御年78歳。会話もキレキレです。

「おいしいというか、見て愉しいカクテルやね。世界的には7色だけどね。うちのは白が多めなのが特徴なの。この方がほかの色が引き立つでしょ。過去には最高15段重ねたこともあるけどね」
小さなグラスに、慎重にお酒を重ねていく。
いまではなかなか見なくなった往年のカクテルで、昭和のバーで花開いたであろうエンターテインメント性あふれる1杯に触れると、大きな拍手を送りたくなってしまう。

バースプーンの背を伝わらせてそっとお酒を注いでいく。
バースプーンの背を伝わらせてそっとお酒を注いでいく。
バナナリキュールにブルーキュラソー、スロージンも。
バナナリキュールにブルーキュラソー、スロージンも。
表面張力を見極め、ぎりぎりまで注いでいく。
表面張力を見極め、ぎりぎりまで注いでいく。
ほうら、きれいな“レインボー”ができました!
ほうら、きれいな“レインボー”ができました!

にやりと笑ってマスターが言う。
「世間的にはここで完成。うちはここから遊ぶんよ」
そして、シュッとマッチを擦り、小さな炎をカクテルに灯した。
それは、童話の「マッチ売りの少女」の炎を連想させた。

やがて、カクテルに炎がつき、バーカウンターを照らす聖火のようになった。
「不思議とこれがライターじゃきれいじゃないんやわ」。

さらにグラスのまわりに酒をこぼした。すると、グラス全体が炎に包まれた。

ロマンティックを超えて、もはやイリュージョン。

そのシルエットは、トロール人形のごとし。さっきからメルヘン的要素が浮かぶのは暗闇×炎のゆえか。
ああ、ガラス割れちゃわないの!?という心配をよそに、マスターは余裕綽々である。

真骨頂はここからだ!

火遊びがひととおり終わった。が、まだまだマスターのエンターテインメントは続く。
「こうしてストローをさして」と、ストローを静かに持ち上げると、直系6mmのプラスチックのなかに虹ができ上がっていた。
「男の人が、これを女の口に運んで飲ませてあげるのがいいのよ」

今度はグラスを持ち上げ、えいやとグラスを90度に倒した。
倒れたグラスにもレインボー。
そして今度は、まっさかさまにひっくり返し、何事もなかったようにもとに戻した。
グラスのなかは混ざることも乱れることもなく、きれいな虹が保たれていた。

マスターはいかにも器用な人であるけれども、きっぱりとこういった。
「伸びていく人には運がある。ただし努力なくして運向かず。がんばることだけがすべてではないけれど、がんばることは尊いよ」

若い日に、相当練習を積んだであろうフルーツのカット。48年前から使っている包丁のちびた刃がそれを物語る。
りんごひとつを提供するのでも、カットを変えて目を愉しませてくれる。フルーツカットの大会で輝かしい成績を納めたこともあるし、県内永平寺町にある天谷調理製菓専門学校でフルーツの飾り切りやカクテルの講師として赴いていた時期もある。

「こんなの簡単よ」とりんごの飾り切りを披露してくれた。
「こんなの簡単よ」とりんごの飾り切りを披露してくれた。

いよいよ次は、往年のブランデーの飲み方を堪能させてもらうことにしよう。

――つづく。

店舗情報店舗情報

ニュー淀
  • 【住所】福井県福井市順化1‐17‐21 旭ビル1階
  • 【電話番号】0776‐24‐1725
  • 【営業時間】17:30~翌1:00(L.O.)
  • 【定休日】日曜、年末年始
  • 【アクセス】福井鉄道福武線「福井城址大名町駅」より5分

文:沼由美子 写真:出地瑠以

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沼 由美子(ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。