知られざるバーへ。
昭和スタイルでブランデーを|福井「ニュー淀」③

昭和スタイルでブランデーを|福井「ニュー淀」③

1970年から続く、福井のオーセンティックバー「ニュー淀」。火を灯すカクテルを愉しんだら、次はいよいよブランデーを!マスターの言う「昭和30年代の“銀座の飲ませ方”」とは?

昭和30年代の“銀座の飲ませ方”でブランデーを味わう。

「ニュー淀」は1970年から続く、福井のオーセンティックバー。
「ニュー淀」は1970年から続く、福井のオーセンティックバー。

「うちには火を燃やすカクテル、結構あるわ」
福井の繁華街にあるバー「ニュー淀」のマスター、嶋田修身さんは冒頭、そう言った。
2杯セットじゃないと頼めないカクテル、その名も“火遊び”。多色のリキュールやスピリッツの層が美しいカクテル“レインボー”。
次は何が来るというのか?

「昭和30年代、銀座で出していたブランデーの飲ませ方を教えてあげましょう」

そう言うと、ふっくらとしたふくらみのあるブランデーグラスにウォッカを注ぎ、すぐさま火を灯した。
瞬く間に青い炎が燃え上がる。
マスターは慣れたもので、立ち昇る炎をものともせずにグラスをくるくると回している。

ブランデーグラスに度数の高いウォッカを注ぎマッチを灯す。
ブランデーグラスに度数の高いウォッカを注ぎマッチを灯す。
青い炎が勢いよく燃え上がり、グラスをほどよく温めていく。
青い炎が勢いよく燃え上がり、グラスをほどよく温めていく。

さらに、「こうした方がよく見えるか?」と、ぶぉーんぶぉーんと大きくグラスを振り回す。マスター、ご乱心を!?グラスの炎は宙を浮く鬼火のようにも見えるのだった。

「よく見えるか?」とサービス精神満点のマスター、嶋田修身さん。
「よく見えるか?」とサービス精神満点のマスター、嶋田修身さん。

「まずはこうやってグラスを温めるんですよ。お湯を注いでもいいけど、この方がお客さんが喜ぶでな。昭和30年代、僕がいた銀座や四谷のバーではこういう見せ場をつくったもんですよ」

マスターは御年78歳。同世代にマジックができたり、洒落の利いた会話術が得意なバーテンダーがいるのは、ただカクテルをつくったりお酒を提供するだけでなく、「お客を愉しませてこそ」というエンターテインメント性を求めたスキルのひとつだったのかもしれない。

ウォッカを捨て、グラスがほどよく温まったところに、いよいよブランデーを注ぐ。
それをやすやすと差し出さないのが、ここ「ニュー淀」だ。

「これを横に倒すとな……」と、グラスをカウンターに寝かせていく。
ああ、こぼれる!……と思ったギリギリのところでグラスは均衡を保ち、ぴたりと静止した。
「一番いいバランスの量を入れてるからね。こうしてる間にも香りが立つんよ」

絶妙な均衡を保ってカウンターに横たわるブランデー。
絶妙な均衡を保ってカウンターに横たわるブランデー。

注がれたブランデーは往年の銘酒、“レミーマルタン”だった。これが“マーテル”の日もあるし、“ヘネシー”の日もある。厳かな酒瓶の高貴な茶色い液体をこんなにも愉快な気分で飲めるとは。
にんまりが止まらないまま、ゆったりと香り高いブランデーを味わった。

往年のブランデーカクテルも飲んでみよう。

ブランデーサワーは、ブランデー、レモンジュース、砂糖少々を氷と共にシェイク。「ニュー淀」では、少量の炭酸を注いで仕上げる。
ブランデーサワーは、ブランデー、レモンジュース、砂糖少々を氷と共にシェイク。「ニュー淀」では、少量の炭酸を注いで仕上げる。

そのブランデーを使ったカクテルも味わってみることにした。
昭和のある時代には一世を風靡した“ブランデーサワー”である。サワーは「酸っぱい」のことで、レモンジュースの酸味が利いたカクテルである。炭酸でアップするか否かはバーテンダーによってわかれるところ。ウイスキーをベースにしたらウイスキーサワーとなり、同様にジンサワー、ラムサワー、テキーラサワーというカクテルもある。

しなやかでソフトなシェイクスタイル。矍鑠(かくしゃく)としたバーテンディングでもてなしてくれる。
しなやかでソフトなシェイクスタイル。矍鑠(かくしゃく)としたバーテンディングでもてなしてくれる。

「サワーはブランデーが一番しっくりくるんじゃないかな」
そういいながら、マスターは軽快にシェイカーを振る。
グラスには、例の包丁技が光るレモンが添えられる。
爽快な酸味が駆け抜け、香りのいいアルコールが口いっぱいに広がり、ふくよかな甘味も感じさせる。
古典的なスタイルの残るバーはいいなぁ。と感じ入っていると、そんな感傷を吹き飛ばすようにマスターが言った。
「1年半前から挑戦している、まだ努力中の酒があるんや!」
この道、半世紀以上だというのに、まだ新しいカクテルを研究中なんですか!?そ、それは一体どんな……?

――つづく。

店舗情報店舗情報

ニュー淀
  • 【住所】福井県福井市順化1‐17‐21 旭ビル1階
  • 【電話番号】0776‐24‐1725
  • 【営業時間】17:30~翌1:00(L.O.)
  • 【定休日】日曜、年末年始
  • 【アクセス】福井鉄道福武線「福井城址大名町駅」より5分

文:沼由美子 写真:出地瑠以

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沼 由美子(ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。