本業はWEBプランナーながら、バリスタでもあり、コーヒーカクテルの人気の高まりに注目するソニア・カオさん。彼女が案内してくれたのは銀座「アポロ」。オーナーバーテンダーの小松秀徳さんにとって、コーヒーカクテルは数あるカクテルのなかでどんなポジションなのか。
本業はWEBプランナーながら、強いコーヒー愛を抱くバリスタでもある。その愛が募り、勤め先の会社では、2015年より社内カフェをオープン。有志で週一回店を開き、スペシャルティコーヒーをドリップして販売するように。バリスタのコンペティションなどで撮影した写真が評判を呼び、撮影の依頼を受けることも。コーヒーカクテルについての造詣も深く、バーにも精通するようになる。2019年6月からはフリーランスとしてコーヒーやバー業界のプロモーションを始動。バリスタとバーテンダーの架け橋になる活動をしている。
コーヒーに造詣が深く、コーヒーカクテルの広まりに注目するソニア・カオさん。彼女が太鼓判を押すバーが銀座「アポロ」である。
オーナーバーテンダーの小松秀徳さんのつくるコーヒーカクテルのコーヒーは、スペシャルティコーヒーでもなければ、自店で淹れたものでもない。けれども、コーヒー豆を扱うプロが飲んでも「絶妙なバランス!」と称賛するおいしさがある。小松さんの手にかかれば、もしそれがインスタントコーヒーだとしてもうまくカクテルに昇華させてしまうのではないかと思えてくる。
小松さんは言う。
「バリスタがつくるコーヒーカクテルはあくまでコーヒーが主役。バーテンダーにとってのコーヒーはあくまで副材料だと思うんです」
カクテルづくりにおいて、どんな豆のコーヒーを使うかよりも、小松さんが心を砕く点はほかにある。
たとえば、氷。
ロングカクテルに使う氷は、長四角、涙型などの変遷を経て、いまはキラキラと煌めくダイヤモンドカットの氷に行き着いた。一点の澱みも曇りもない。その美しさに感動した外国人観光客の女性は、「なんとしてもこの氷が欲しい!」と、ホテルまで氷を持ち帰ったという。その気持ちがよくわかるほどのクオリティなのだ。
氷の仕込み方は、銀座「スタア・バー・ギンザ」の岸久(きしひさし)さんが経営するバーテンダースクールで教わった。岸さんは、「日本バーテンダー協会(NBA)」の会長を長く務めた人物で、2008年にはバーテンダーとして「現代の名工」を初めて受章、2014年には黄綬褒章を受章している。「スタア・バー・ギンザ」に初めて訪れた誰もが驚くことのひとつが、氷である。
約3日がかりで仕込まれる氷は、10cmほどの四角柱の形に整えられてグラスに入れられても、真上からコースターの文字がすんなりと読めるほどにクリア。一点の曇りもないゆえに、液体を注ぐと途端に姿が消えてしまうので、外国人客の間では“ニンジャ・カクテル”なんて呼ばれている。
小松さんの氷は3日がかりで育てた氷にさらに美しいカットが施してある。
「氷屋さんから買う貫目氷を包丁で切り、冷凍庫、ひと回りちいさい冷凍庫、冷蔵庫と温度の異なるところへ移しながら氷を仕込んで、よりクリアでカクテルにふさわしい氷に仕上げていきます。それでも取り切れない霜は、カクテルを提供する直前に包丁で削り、例の扇子であおって取り除くという手法にたどり着きました」
バーで使う氷は、1種ではない。
ほかに、クラッシュアイス、丸氷、複雑なカットを施さない四角い氷、キューブ型のダイヤアイスと計5種に上る。
さらには、小松さんは、炭酸水もミネラルウォーターを用いて自家製している。発泡の強弱はカクテルの味わいによって調整する。
「泡の強い炭酸はハイボールによく合いますし、微炭酸なら甘味をうまく立たせてくれます。グラスに注いだあとのステアの具合で発泡の強弱を調整しています。また氷の表面を磨くのとそうでないのでも炭酸の立ち方は変わってきます」
「バーは暗がりのなかに音楽があって、ふぅっと息がつける場所。コーヒーは多くの人に馴染みがある飲み物ですが、僕にとってはあくまで副材料。豆のよさを伝えるわけではありません。カクテルとしてのバランスや味わいを大事にしています」
前回、小松さんは、ジンのオンザロックにコーヒーを少し垂らすだけでもニュアンスが変わって愉しめると教えてくれた。
「コーヒーは濃度を薄めても映えるフレーバーがあります。たとえば氷が溶けてきたアイスコーヒーでもそれはそれで疲れずに飲めるように。コーヒーが少しでも加わることで、『昼下がり、友達としゃべりながら』というリラックスした感覚でカクテルを愉しめると思うんです」
バリスタによるコーヒーカクテルへの躍進は始まったばかり。そして、バーテンダーによる、コーヒーのカクテルへの昇華はますます多様性を増していく気配がある。
この動きは、カフェとバー、昼と夜の境界線が融合していくようでもあるし、バリスタ、バーテンダーのアプローチの違いが如実にあることは、両者のプロの仕事が見られるようでとても興味深いのである。
(了)