イスラム横丁には、バングラデッシュ以外にも、ミャンマー系や、インド系ムスリムなど、国際色豊かな食材店が軒を連ねている。ショッピングのはしごでお腹が空いたら、横丁のレストランでランチをぜひ。ビリヤニ、クスクス、ケバブ丼、お急ぎなら、カレー味の焼き鳥を買い食いするのがオススメです!
「ジャンナット ハラルフード」を出て「新宿八百屋」まで来たら、お目当ての場所はすぐそこ。古めかしい雑居ビルには、モスクのほかに韓国系の美容室や整体院、マッサージ店が同居している。このビルの2階にミャンマー系ムスリムのハラルフードショップ「ROSE FAMILY STORE(ローズファミリーストア)」があったので、ちょいと寄ってみることに。
ミャンマーはほぼ仏教徒で占められているが、ムスリムも一定数が暮らしている。ロヒンギャの問題(ミャンマー西部ラカイン州で、少数民族のロヒンギャ族に対する国軍などによる人権侵害)でミャンマー政府は世界中から非難されているが、東京のミャンマー系ムスリムは母国から遠く離れた地で力強く生きている。ミャンマー人のコミュニティは高田馬場にあり、新大久保まで買い物に来るミャンマー人も多いようだ。
「ジャンナット ハラルフード」とは異なり、店内にはインドシナのエッセンスが漂っている。商品説明は、まん丸いビルマ文字で書かれたミャンマー語。タイ文字やクメール文字に似て非なる可愛らしいフォルムの文字だ(読めないけど)。
店内は整然としており、店の中央に冷凍庫がでんと鎮座している。中を覗くとカチンコチンに凍った川魚が収まっていた。多分ナマズか何かだろう。高田馬場のミャンマー料理店で“モヒンガー”というナマズのスープを食べたことがあるが、とろ~っとした濃厚さとほのかな酸味がとても美味しかったと記憶している。この魚も“モヒンガー”に使われるのかな。
ミャンマーには発酵したお茶っ葉を食べる文化があるが、店内をキョロキョロしていたら、ありました、ありました!
ローズファミリーにも“ラッペ”という茶葉が売られてましたよ。茶葉だけを袋に詰めた商品もあったが、私たち取材チームは500円のお茶っ葉ミックスを購入。ピーナッツオイルと塩で調味された茶葉と、干しえび、ミックスビーンズのセットだ。
黙々とスマホの修理をしていた店員さんに食べ方を聞いてみると、これらの材料とごはんを混ぜるのがミャンマー式なのだそう。
さらに「そのまま食べれば、ビールのつまみにもなるよ」と、ニヤッと笑いながら教えてくれた。
後日談。イスラム横丁に同行した阪本さんは家に帰ってさっそく混ぜごはんをつくり、おにぎりにして食べたそうだ(さすが、おにぎり写真家!)。私はビールのアテに。少々茶葉が油っこくて塩辛かったので、ちびちびと珍味を舐めるようにいただきました。
階段を上り、モスクへ。代々木上原の「東京ジャーミイ」を勝手にイメージしていたが、ドアに小さな貼り紙がしてあるだけだった。男女別々に部屋が設けられ、「女性礼拝所」と日本語も併記されている。内部はどうなっているのだろう?興味がムクムクと湧いてきたが、マレーシアのモスクで信者に叱られたことを思い出した。観光可能な寺院や教会とは違い、ここは信者のための神聖な場所。興味本位で扉を開けることなど御法度だ。
イスラム横丁の小さなモスクは、このビルの向かいにある「ナスコ」というハラルフードショップ社長のナセル・ビン・アブドゥラさんが一室を借りてつくったものらしい。今回、多忙のナセルさんには取材を受けていただけなかったが、この横丁のリーダーであり、ムスリムたちからの信頼も相当厚いという。そんな人望のある方にぜひお会いしたくて、私ひとりで「ナスコ」を訪れてみた。
薄暗い倉庫のような店内では、あごに髭を蓄えた仙人のようなナセルさんが、アラブ系の男性と神妙な顔をして話をしていた。男性「もう少し安くなるか」ナセルさん「いや、もうまけられないよ」といったやりとりをしていたので、商談だろう。空気が異様に重い。話しかけるきっかけをつかめないまま店を出ようとすると、「悪いね、またきてね」と声をかけてくれた。ナセルさん、優しい。(いえいえ、いいんです。商談の邪魔をしてゴメンナサイ)と、心の中でナセルさんに詫びた。同行したイスラム横丁通の編集者・星野さんによれば、ナセルさんは読売ジャイアンツの熱狂的なファンらしい。ジャイアンツが勝つととても機嫌がいいらしいので、ペナントレースが始まったら再訪してみよう。
「新宿八百屋」のはす向かいには、「ナスコ」の姉妹店「グリーンナスコ」がある。そこにはケバブを売るスタンドもあり、近所の進学校に通う男子高校生がケバブ丼を立ち食いしていた。
彼を見ていたらお腹がぐうと鳴ったので、我々はイスラム横丁の真ん中にある「ナスコ フードコート」で食事をとることにした。こちらの経営者もナセルさん。
取材NGだったので、さくっと食べて出るつもりが、皿に山と盛られた真っ黄色のビリヤニがなかなかの美味しさなのだ。チキン、フィッシュ、エッグなど具は色々あるが、ごはんの中に具が隠れているので、ビリヤニ3皿がテーブルに並ぶと、何が何だかわからない。スプーンで具を掘り起こしつつ、メガ盛りのビリヤニを何とか完食。すると星野さんが「ここのBBQチキンもうまいっすよ」というので、3本追加で注文する。
「これ、最高」。チキンを食べた阪本さんの瞳がキラキラと輝いている。「またまた~」と私も頬張る。あれ?ほんとだ、信じられないほどおいしい!焼き鳥のように串に刺さったチキンがジューシーで旨味たっぷり。鶏肉全体がスパイスの複雑の香りに覆われていてクセになる。
星野さん情報だと、下味にカレーリーフをたっぷり使っているそうだ。その風味が「また食べたい」という気持ちにさせるのだろう。店内での注文だと1本150円だが、屋台で買えば1本100円!
安いなあ、美味しいなあ。そして、ものすごーくビールが飲みたくなってきたなあ。でも、ハラルだもの、飲めないよねえと諦めかけたところに「ビール、飲みに行きましょう」と、星野さん。え~っ、だ、だ、大丈夫なの?
――つづく。
文:佐々木香織 写真:阪本勇 イラスト:UJT(マン画トロニクス)