日本最大のモスク「東京ジャーミイ」にオープンしたばかりの「東京ジャーミイハラールショップ」へ。東京は新大久保のイスラム横丁にあるハラルフードショップはインドやパキスタンの商品が多く並び、雑然とした雰囲気が魅力だが、「東京ジャーミイハラールショップ」はレジに自動支払機が導入され、整然とした棚にはインドネシア、マレーシア、トルコ、キプロスなど、中東や南アジア以外の国の商品も揃う。イスラム横丁とは趣の異なる、最新のハラルフードショップを探索した。
東京は代々木上原にある日本最大のモスク「東京ジャーミイ」に、2019年5月10日「東京ジャーミイハラールショップ」がオープンした。ハラルとは、イスラム教において「許可されたもの」という意味。つまり、ムスリムが食べていいもの、許可されたものを扱っているショップだ。
ちなみに、「禁止されている物事」をイスラム教ではハラムという。豚肉や酒がハラムであることは、日本人にも広く知られている。
ラマダンの礼拝とイフタールの取材のために訪れた私たちだったが、日没後の礼拝前に店内を見学させてもらった。
お店は「東京ジャーミイ」1階奥の、離れのような場所にあった。まだ、壁や棚など、そこここから真新しい“におい”がする。すでに店内にはイフタール前に買い物をするムスリムが大勢訪れていた。
「東京ジャーミイ・トルコ文化センター」広報・出版担当の下山茂さんに聞いた。なぜ、モスクにハラルショップを新設されたのですか。
「日本一大きなモスクには、日本で生活するムスリムが礼拝のために全国から訪れます。お祈りの後にハラルフードが購入できる場所があったらいい、と以前からリクエストされていたんです」
新大久保のイスラム横丁でもハラルフードは手に入るが、礼拝の後に気軽に買い物ができれば、ムスリムにとって便利この上ない。また、新大久保のショップはパキスタンやインド系ムスリムのための商品が多い。商品の偏りをできるだけなくすため、さまざまな国から商品を輸入しているのが、「東京ジャーミイ」の最大の特徴だとか。日本国内で生産されたハラルフードも数多く揃っているという。
「ムスリムだけでなく、日本人にも気軽に来店していただけるよう、いろいろと工夫しています。商品が見やすいように広々としたスペースを確保しましたし、レジも、最新型の自動支払機を導入しています」
ぐるりと店内を歩いてみると、たしかに明るく整然とした印象だ。新大久保のごちゃっとした濃厚な雰囲気とはまったく異なる。
実際に商品を手に取ると、インドやパキスタン以外に、トルコ、インドネシア、イランなどで製造されたハラルフードのほか、ブルネイ、キプロス、パレスチナなど、普段はなかなか目にすることのない国や地域の商品も並んでいた。
コーランにのっとって屠殺された肉や魚介、冷凍食品にインスタント食品、乳製品やコーヒー、紅茶、お菓子、調味料やジャムなど、ありとあらゆる食品がずらり。千葉在住のバングラディシュ人による手づくりのパンも人気だという。“チーズケーキ”や“モンブラン”、“ショートケーキ”など、生菓子も充実していて、ショーケースを眺めているとハラルショップにいることを忘れてしまいそうだ。
納豆や煎餅など、ハラルフードとして加工された日本の味覚も。
「醤油には微量のアルコールが含まれています。気にしないムスリムも多いのですが、気にする人も一定数います。そういう人にも食べてもらえるよう、アルコールを含まない特殊な醤油を使って調味されているんです」
「東京ジャーミーハラールショップ」マネージャーのムハンマド・アディリさんが教えてくれた。
食品以外にも、コーラン、ヒジャーブ、礼拝用のマットなど、ムスリムの必需品も揃っている。
「『東京ジャーミイ』のポストカードは1枚150円、しおりは100円。お買い得だよ(笑)」と、下山さんが薦めてくれる。
「モスクの象徴であるチューリップの花をあしらった絵皿なども、お土産にいいと思うよ」
そんな中、取材チームが気になってつい購入してしまったのが、木の歯ブラシ“ミスワーク”。サウジアラビア製で、アラクという木の枝でできている天然の歯ブラシだ(ブラシとはいうものの、見た目は鉛筆くらいの太さと長さの木の枝)。下山さん曰く、抗菌作用があり、1,400年ほど前に預言者が推奨したものらしい。乾燥した枝を水に2時間くらいつけると柔らかくなってきて、その先端を歯でほぐすと繊維だけになり、それで歯や歯ぐきを磨くのだという。10数回使うとちびてくるので少しずつ枝をカットしながら、短くなるまで大事に使っていくそうだ。
後日、使ってみたら……。
編集の星野一樹さんは「汚れが取れているか、よくわからないけれど、なんとなく口の中がすっきりした」とのこと。佐々木の感想を正直に言わせていただけば、「歯ブラシのように枝を動かしても汚れがすっきり取れていない気がするから、おそらく使い方を間違えているのだろう。ただ、化学的なものを一切使用していないミスワークは、きわめてエコロジカルな商品」である。いざというときのために、我が家の防災リュックにそっと収めました……。
スーパーや百貨店、ネットでは簡単に見つけることのできない珍しい食品や雑貨が豊富な「東京ジャーミイハラールショップ」。難しいことは考えず、宝探しをするつもりで気楽に訪れてみてはいかがだろう。買い物を通して、イスラム教やムスリムが、より身近に感じられるに違いない。
――つづく。
文:佐々木香織 写真:阪本勇