自由で大胆!「haccoba」の攻めの酒造り/クラフトSAKE醸造所訪問レポート ボタニカル酒・後編

自由で大胆!「haccoba」の攻めの酒造り/クラフトSAKE醸造所訪問レポート ボタニカル酒・後編

日本酒から弾け出た新ジャンルの酒、「クラフトSAKE」。ワクワクする独創的なお酒の数々は、こんなアプローチで造られていました。令和の時代ならではのチームづくりにも注目です!

時代を捉えた面白さが刺さる!「haccoba LAB_」シリーズは垣根を超えた自由研究だ

ボトル
左から定番の「はなうたホップス」、LABシリーズVol.16「べりーべりー so much!」、Vol.17「わらわらしやがれ」。「べりーべりー so much!」は南相馬産のいちごとブルーベリーを副原料に使用しているため、ほんのりピンクの色合いがキュート!カラフルな色調のバリエーションも、「haccoba」のクラフトサケの持ち味だ。

2021年の開業以来、「haccoba」から誕生したクラフトサケは24銘柄。うち19種類、約8割を占めるのが、「haccoba LAB_シリーズ」と銘打った超個性派ボタニカル酒の連作だ。

コンセプトは「酒づくりをもっと自由に、さまざまな垣根を超えた自由研究」。その口上のとおり、あっと驚く自由度の怪作がずらり。多様な副原料を縦糸に、人や自然の存在感、海外のお酒や異文化の風、時には社会現象や歴史も含むさまざまな事物を横糸に絡ませながら、1本1本の味わいに織り出している。発酵文化デザイナーの小倉ヒラクさんの言葉を借りれば、「今の時代の気分を捉えている。刺さる人には刺さりまくる面白さ」が全開だ。

ジャンルの垣根を溶かす

「あらゆるもののジャンルの垣根を溶かして、ビールだかワインだか日本酒だかわからないけれど滅茶苦茶おいしい!っていう。そういうSAKEを造りたい」と佐藤さんは言う。

「日本酒×ビール」のコラボを例に挙げれば、焙煎した米麹とカカオ豆の皮でビターな香ばしさに醸した「おこめとカカオのスタウト」、全麹仕込みとダブルドライホップの併用でIPAのコクとパンチを表現した「全麹IPA-Yay!Yay! Hazy!!-」などの傑作が。7作目では甲州味噌と和山椒を使って乳酸発酵系の塩ビール“ゴーゼ”に近づけたり(「Wai Waiみそゴーゼ」)、ニガヨモギやイチジクの葉で中世ヨーロッパの“グルートビール”を再現したり(「グルートな夜」)と、回を重ねるごとにチャレンジの切れも増してゆく。

卵鞘酒
コオロギラーメンや昆虫食のコース料理を供する「ANTICICADA」とのコラボ作も。こちらは、ゴキブリの卵鞘を加熱処理の後、一部麹にして醸したという「卵鞘酒」。味わいは香ばしいニュアンスがあり、旨味まろやか。

ビール以外でも、ワインの搾り滓を発酵途中のもろみに加える「まーるまーる」や「たーるまーる」、りんごのハードサイダーをメインモチーフにした「Ring.Ring.Ring.」、マサラチャイをイメージし、紅茶とスパイスを米と一緒に発酵させた「CHAI doburoku」など、まさに好奇心の赴くまま、まっしぐら。

単なる副原料の掛け算にとどまってはいない。あるときは燻製した稲藁で、尊敬する米農家の田んぼの風景をオマージュし(「わらわらしやがれ」)、震災から10年という節目より、過去と向き合い、未来を志向するためのムーブメント「D2021」とのコラボを掛け合わせてオリジナル楽曲アルバム付きのプロダクトに着地させたり(「土-D-」)と、人やアートを引き込むスケールの大きさも図抜けている。

稲藁
「わらわらしやがれ」では、はざ掛けの農民藝術でも知られる自然栽培米の米農家「つちや農園」と東京の人気飲食店「髙崎のおかん」とのコラボ。田んぼの美しさをオマージュするために、実際に稲藁を副原料に使用。スモークビールの「ラオホ」からヒントを得て、燻製した稲藁をもろみに加えて発酵。着想もネーミングも超ユニーク!
首に掛けるラベル
ボトルにラベルは貼らず、首に掛けるタグだけを変えていく。POPデザインもカラフル。

大事なのは「素人の視点」

「クラフトSAKE造りには、素人的な視点が絶対に必要」というのが佐藤さんの持論である。「具体的に言えば、酒造りも酒自体のこともよく知らないけれど、他の畑ではプロフェッショナルな人たち。彼らの視点が入ると、プロダクトに別の輝きが差してくる。そんなメンバーが集まり、くっついたり離れたりしながら、“みんなで育てる”楽しみを追求するのが面白い」

となれば、当然2つとして同じSAKEはない。1本1本が、その時々のつながりや関係性によってつくられるライブ作品に等しいからだ。

「日本酒で大事にされる再現性とは真逆の発想ですよね(笑)。でも、変わることをあえて肯定したい。クラフトSAKEの面白さは、そこが肝だと思っています」

ステンレス製の圧搾
上槽のための設備は、ごらんのとおりにミニマルなステンレス製の圧搾器。槽口から出て来る酒を受け止める容器には、業務用のステンレス製寸胴鍋が活躍。
「たーるまーる」の酒粕
オレンジワインの搾り滓を副原料に仕込んだ「たーるまーる」の酒粕には、ブドウの枝や皮が混じった状態。

“haccobaのクリエイション”はチームで醸す

ミーティング
恒例の朝のミーティング。その日の作業を全員で確認する。スケジュールやタスクはクラウドで共有。

“みんなで育てる酒蔵”の視点は、チームhaccobaの内部にも向けられる。「1人の強烈なリーダーシップでつくる酒も面白いと思うけれど、“タイスケのSAKE”を造りたいとは全然思いません」と佐藤さん。
「飲む人には“haccobaのクリエイションが好き”と思ってもらいたい。だから、造ろうとする酒の味だけではなく、デザインやマーケティング、コミュニケーションの方法も含め、すべてスタッフ皆で情報を共有しています」

新作を企画する段では、1本ごとに「どういう体験を届けたいか」の設計書をつくるという。LABシリーズのプロダクト創りには2通りの流れがある。造りたい酒のレシピありきでコラボ先を探すのが1つ。いま1つは、コラボ相手が決まっていて後からレシピに落とし込むパターン。いずれにしても、商品化までの間に、チームで徹底的にアイデアを出し合う。飲み手目線に立った願望のつぶやき合いというほうが近いかもしれない。
「○○料理と合うお酒が飲んでみたい」
「アルコールは低いほうが疲れないよね」
「こんな場所で、こんな音楽を聴きながら飲めたら、きっと楽しい」などなど。リアルな“時代の気分”がそこで掬われ、商品に反映されてゆく。

蒸し米を運ぶ武田朋之さん
醸造は代表の佐藤さんを含む3名が担当。蒸し米を運ぶ武田朋之さん。
タンクに櫂入れをする三村怜さん
タンクに櫂入れをする三村怜さん。武田さんとともに昨年10月に入社。クラウドファンディングを通してhaccobaの存在を知り、理念に共鳴して蔵入りを志願した。
インターンで蔵に来ていた学生
この日は東京農大の研修で蔵に来ていた学生も酒造りに参加。

時には、営業を終えた後のゆるい乾杯タイムが、白熱したネーミング会議に発展することも。「わらわらしやがれ」「まーるまーる」「たーるまーる」「べりーべりー so much!」など、LABシリーズの謎めいてキャッチーなタイトルの多くが、スタッフ同士のフリートークでの閃きから生まれている。

佐藤さんの妻、みずきさん
代表の佐藤さんの妻、みずきさん。太亮さんとはウォンテッドリー勤務時代の同僚という。週末パブの営業日はキッチンで料理の腕も振るう。
五十嵐茜さん(左)
五十嵐茜さん(左)。haccobaでは広報やマーケティングを担当。みずきさんとともにチームの活動を支える。
前菜の三種盛り
パブの人気メニュー「前菜の三種盛り」(1,100円)。クミンとコリアンダーが香るキャロットラペ、魚醤“いしり”を隠し味に使った隠元と舞茸のバターソテー、南相馬の郷土漬物“からみ漬け”がアクセントの和風ポテサラで、まず1杯。
蒸し豚の柿ソース バルサミコ酢
「蒸し豚の柿ソース バルサミコ酢」(880円)。柔らかく蒸しあげた豚バラ肉に、生姜、醤油を加えて煮詰めた柿ジャムにバルサミコ酢を練り合わせたコクのあるソースをかけて。 柿は福島県国見町産の完熟柿を使用。

隣の浪江町に2軒目の酒蔵を建設中!

そんなチームhaccobaの航海は、これからどこに向かうのか。実は、南相馬市の隣の浪江町に2軒目の酒蔵を建設中という。今年5月のオープンに向け、目下急ピッチで準備が進む。現行の設備では年間製造量6000Lがやっと。急伸した需要に、さすがに生産が追いつかなくなっている事情がある。
「でも、第2工場的な醸造所ではなく、別のスタイルを2箇所で造り分けていくような形を考えています。浪江町は小高以上に原発に近く、復興に力を注ぐべきエリアのひとつでもあるので、よりフロンティアスピリッツあふれる酒造りで“攻めて”いきたい」

さらに、その先の目標として、ベルギーへの酒蔵進出構想も水面下で進行中。佐藤さんが昔から大好きなベルギービールの自由で振り切った製法に、米と米麹の発酵を掛け合わせ、「haccoba」流のクラフトSAKEの楽しみを欧州で発信したいと意気込む。

実現は、きっとそんなに先ではないだろう。そう思わせる勢いと熱量が、今の「haccoba」にはある。

チームhaccoba
右から佐藤太亮さん、佐藤みずきさん、三村怜さん、武田朋之さん、五十嵐茜さんの「チームhaccoba」。

haccoba -Craft Sake Brewerey-
【住所】福島県南相馬市小高区田町2丁目50-6
【URL】https://haccoba.com/
【アクセス】JR常磐線「小高駅」より徒歩7分

文:堀越典子 撮影:阪本勇

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