
初夏から秋までの長い間、食卓を彩ってくれるありがたい野菜、なす。中華のベテラン、六本木の店「KOBAYASHI」で腕をふるう小林武志さんの4レシピはいずれも、たっぷりの“油使い”が決め手です。誌面掲載の4レシピに、特別編の1レシピを加えて全5レシピを、順にお届けします。この夏、未体験の“なす料理”をぜひ食卓に! 第1回は、みんな大好きな「麻婆なす」です。パンチあるおいしさに、ご飯もビールも進みます!
「なすって淡白な味でしょう? 生だと香りもほぼありません。油と合わせて調理することで初めて、香りも出るし、味も際立つ。なすという野菜の本領を味わうには、油は不可欠です」
こう断言するのは、かつて中国料理「御田町(みたまち) 桃の木」で多くの食通を魅了し、現在は六本木「KOBAYASHI」で魅惑的なコース料理を繰り出す小林武志シェフだ。素材を生かし、技術を駆使し、中国料理から一歩踏み込んだ独自の世界を展開している。
小林さんのスペシャリテは、“なすの唐揚げ 山椒唐辛子風味”。白く揚がったなすが赤唐辛子に包まれた、ビジュアル的にもインパクト絶大な一品である。箸をつければ、外側はサクッ、内側はとろ~り。その食感のコントラストも驚愕ながら、刺激的な香りをまとったなすは甘味が強調され、未体験の味わい。恐れ入りました!「なすと油は出合いもの」という通説のはるか上をいく小林さんのオリジナル料理に感嘆しきり。今号でなす料理4品を教えていただくお願いをした。
4品のいずれも、たっぷりの油を使うのがミソ。「油でこそ得られる高温で、なすの表面が“焼け始める”ことで、独特の香りと、甘味が出てきます」。
驚いたのは、焼きなす。丸ごと焼いて皮をむく日本式焼きなすの滋味とは大きく異なり、ジュワッと焼けたなすのジューシーさが秀逸。「油を足しながら焼く」ことにややためらいを感じなくもないが、「最初はなすが油を吸いますが、火が通ってくると、逆に不要な油を吐き出すんですよ」という小林さんの言葉にまたびっくり。事実、その通りだった。
また「切ったら水にさらして変色を防ぐ」のが定石とされるなすだが、「よく切れる包丁で切れば、そのまま置いても変色しません」と小林さん。ピーラーで皮をむく場合は、途中で止まらないよう一気にむくことも大切だ。
初夏から秋まで、旬の長いなす。小林流“目ウロコ”レシピで、ぜひ何度でも楽しんでください!

刺激的なピリ辛味でご飯もビールも進む麻婆なす。小林流のコツは、挽き肉の扱いにあり。表面をヘラやお玉で鍋肌に押しつけてじっくり焼き、出てきた水分が蒸発するまで加熱する。こうすることで肉の旨味が凝縮して料理のアクセントとなり、味わいを格上げする。
| なす | 中3本 |
|---|---|
| 豚挽き肉 | 100g(粗挽きがお薦め) |
| 長ねぎ | 大さじ3(みじん切り) |
| 生姜 | 大さじ1 (みじん切り) |
| にんにく | 大さじ1(みじん切り) |
| 揚げ油 | 適量 |
| サラダ油 | 大さじ3 |
| A | |
| ・ 豆板醤 | 小さじ1 |
| ・ 甜麺醤 | 大さじ1 |
| ・ 醤油 | 小さじ2 |
| ・ 黒酢 | 小さじ2 |
| ・ 砂糖 | 小さじ2 |
| ・ チキンスープ | 大さじ3(※) |
| 中国酒 | 大さじ1(なければ日本酒) |
| 水溶き片栗粉 | 大さじ1(※) |
※チキンスープは、顆粒を水に溶いたものでOK。水溶き片栗粉は、片栗粉と水を同量で混ぜる。
なすのヘタを落とし、90度ずつ回転させながら、箸でつかみやすいサイズの細長い乱切りにする。180℃に熱した油になすを一気に入れ、円を描くように混ぜながら揚げる。香りが出てきて、色がしっかりついたら引き上げ、余分な油を振って落とす。

中華鍋(フライパンでも可)にサラダ油を熱し、挽き肉を入れ、ヘラで押さえて中火で焼くようにしながら火を通す。肉から出てくる水分を肉にからませるように加熱し、ほぼ蒸発したらOK。

2に生姜とにんにくを加えて炒め、Aの調味料を順に加えつつ、一種類入れるごとに炒め合わせて味をなじませる。

チキンスープを加えて煮立て、1のなすを入れ、酒を加えて全体にからめる。スープが乳化して色が均一になったら、水溶き片栗粉を入れてとろみをつけ、最後にねぎを加えて完成。



1967年愛知県生まれ。辻調理師専門学校卒業後、同校で8年間講師を務める。吉祥寺「知味 竹爐山房」や際コーポレーションなどを経て、2005年「御田町 桃の木」開店。現在は、六本木「KOBAYASHI」にて中国料理の知識や技術を生かした独自の料理を展開。

文:里見美香 撮影:伊藤菜々子