クリーミーな口当たりに、ハーブの爽やかな香味がアクセントになったやさしいパテと、ブルーチーズにナッツ、クミンという、濃厚でコクのある組み合わせです。パンはもちろん、ラディッシュなど野菜にディップしても美味。フランスと深くかかわり、グランメゾンから家庭の料理まで広く精通しているサルボ恭子さんに、長く愛され続ける家庭料理を習いました。
「焼きたてのパンのおいしさ、そこへたっぷりと塗るバターの濃厚な風味。野菜などの食材にも力があるから、つくる料理も、よりシンプルになります。マルシェで買い物をしてキッチンに立つと、フランスに来たな、って思うんですよね」
パリのグランメゾンで働いた経験を持ち、現在はフランス人のご主人、お子さんたちと、年に2回はフランスに滞在しているというサルボ恭子さん。ここ数年は南西部のバスクや暖かな南仏で、気のおけない友人たちとゆったり過ごすのが恒例だそう。現地の空気、家族とのおだやかなひとときを、旅行者ではなく第二の故郷として体感しているサルボさんに、フランスの気どらない家庭料理をいろいろと教わりました。
フランス人の食事の基本は、前菜と主菜の2皿構成。朝食は、家族それぞれのタイミングで、各自がコーヒーやパンなどで軽くすませて出かけますが、全員が揃う夕食では、ゆっくりと時間をかけて前菜と主菜、食後のデザートまで味わいます。共働きの夫婦も多いので、平日は簡単な野菜料理や、あらかじめ仕込んでおいた煮込みなど、30分ほどで簡単に支度ができるものが中心。また、週末などで時間に余裕のある日は、家族や親しい友人たちと集まり、食事の前に軽いおつまみでお酒と会話を楽しむ、アペロ(アペリティフの略)の時間が欠かせません。
今回教わったのは家庭で日々、親しまれている定番の料理ばかり。素朴な豆のスープ、生地から手づくりするキッシュに、ゆっくりコトコトと火にかけたポトフ。魚の軽い煮込みや、ちょっとしたおもてなしにぴったりな鶏肉の赤ワイン煮込み。そして、フランス人が大好きなシェーブルチーズのサラダや、卵のソースを添えたアスパラガスなど、うららかな春の装いの料理も。
「特にアスパラガスは、フランス人にとって春を告げる野菜として特別なもの。マルシェに並び始めると、ああ、春になったねと感じる野菜で、ホワイトアスパラガスもよく食べます。アスパラガスをゆでるための鍋や、専用の皿もあるくらい。シンプルな料理を丁寧につくり、ありがたく季節をいただく感覚は、日本人がたけのこを愛でる様子にも、通じているように思います」
旬の野菜は、その時季にならないとマルシェには並びません。季節の移り変わりを、棚に並ぶ野菜の変化で知り、旬のひととき、それを思う存分に味わうことも、家庭料理の楽しさであり、豊かさのひとつ。
「フランスには格のあるレストランがいくつもあって、それもひとつの文化であり、おいしさをとことん追求するものだけれど、家庭料理とはちょっと開きがあります。私がつくりたい、食べたいと思うのは、買いやすい食材と、つくりやすいレシピで、家族の体をつくるための料理なんです」
季節の移ろいを繊細に感じ取り、皿にのせながら、家族が日々を健やかに過ごせるための献立を考えること。それはきっと、世界中のお母さん共通の想いのはず。そんなやさしさと愛情が詰まっているからこそ、家族みんなで食べるごはんは、何よりもおいしく感じられるのです。
★ ハーブのチーズパテ | |
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・ クリームチーズ | 80g |
・ 白カビチーズ*1 | 40g |
・ セルフィーユ | 2本(なくても可) |
・ 小ねぎ*2 | 2本 |
★ ナッツスパイスのチーズパテ | |
・ クリームチーズ | 80g |
・ ブルーチーズ | 20g |
・ アーモンド | 15g(スライス) |
・ クミンシード*3 | 小さじ1/2 |
*1 白カビチーズは、ブリーやカマンベールなど、手に入るものを。
*2 シブレットが手に入れば、小ねぎの代わりに使うと、よりフランスの味に近くなる。
*3 クミンシードの代わりに、たたいた黒胡椒でもよい。
白カビチーズは粗みじんにする。セルフィーユは葉を摘んで粗みじんに、小ねぎは小口切りにする。
ボウルにクリームチーズと白カビチーズを入れ、ゴムベラでよく混ぜ合わせたところへ、セルフィーユと小ねぎを加えて混ぜ、容器に詰める。表面をラップで覆い、冷蔵庫で1時間以上冷やす。パンなどに塗っていただく。日持ちは冷蔵庫で約1週間。
クミンシードはフライパンに入れ、香りが立つまで弱火でから煎りしてから、すり鉢でする。アーモンドも同様に香りが立って軽く色づくまでから煎りし、すり鉢に入れて粗くつぶす。
ボウルにクリームチーズと、粗みじんにしたブルーチーズを入れ、ゴムベラでよく混ぜ合わせたところへ3を加えて混ぜ、容器に詰める。表面をラップで覆い、冷蔵庫で1時間以上冷やす。パンなどに塗っていただく。日持ちは冷蔵庫で約1週間。
料理家の叔母に師事したのち、渡仏。パリの名門ホテル「オテル・ド・クリヨン」の厨房に勤務。現在は東京で料理教室を主宰。フランス家庭料理を軸に、さまざまなテーマで活動する。著書も多数。
文:鹿野真砂美 写真:宗田育子
この記事は四季dancyu「春のキッチン」に掲載したものです。