前回ご紹介した「カオマンガイ」をつくるときに出た丸鶏のゆで汁を、優しい味わいのスープに仕上げよう。肉団子にマジックペーストを入れることで、ぐっと風味が際立ち、タイ料理然とした一品に!豆腐に卵豆腐を使うのも本国でポピュラーな材料ゆえ。カオマンガイとセットで、余すところなく丸鶏を使いきれます。
刺激的な辛さや酸味がタイ料理の最大の特徴。……というのは間違いではないけれど、実は、まったく辛くなく、むしろ優しい味の料理も多数ある。その代表格が、豆腐のスープ「ゲーンジュートタオフー」。ゲーンは「スープ」、ジュートは「淡い」、タオフーが「豆腐」のこと。つまり、薄味の豆腐入りスープという意味だ。
華僑がタイに持ち込んだ料理といわれるが、今ではタイ料理としてすっかりおなじみ。もしもタイを旅行して激辛料理に疲れたら、ゲーンジュートタオフーを食べて、胃を休ませてあげるのも手だ。
すっきりとしたシンプルな味だけに、スープそのものの美味しさがとても大事と、みもっと先生。
「市販のチキンスープの素ではなく、鶏からとったスープをぜひ。前回つくった『カオマンガイ』の、丸鶏のゆで汁を使ってつくりましょう」
豆腐以外にもさまざまな具を入れるが、今回紹介するレシピは、タイでポピュラーな肉団子入りバージョン。豚ひき肉を使った団子からも美味しいだしが出る。
いよいよ、ここでマジックペーストの出番!
マジックペーストとは、にんにく、白胡椒、パクチーの根を石臼で潰してつくる、タイ料理に欠かせないペーストのこと。これを、豚ひき肉に加えて練り混ぜ、団子状にする。
マジックペーストを加えるのは、ひき肉の臭み消しとスープ全体に風味付けをするため。
できたてのスープをさっそく試食させてもらう。体に染み入るようなクリアなスープは、いつまでもちびちびと味わっていたい包容力のある美味しさ。
そして、肉団子をひとかじり。すると、マジックペーストの香りが口いっぱいに広がった。
みもっと先生、この連載の料理で、ペーストの香りがもっとも強く感じられた気がします。
「そうですね。この料理はほかに強い香りの要素がないので、マジックペーストの存在感がより際立つのでしょう」
大さじ1のペーストで、豆腐のスープが、ちゃんとタイの味になる。
あっぱれ、マジックペースト!
卵豆腐 | 2パック(220g) |
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きくらげ | 4個(乾燥) |
小松菜 | 1~2株 |
豚ひき肉 | 200g |
A | |
・ マジックペースト | 大さじ1 |
・ ナンプラー | 小さじ1 |
・ シーユーカオ | 小さじ1(大豆を主原料としたタイの醤油。なければ、出汁醤油を代用してもよい) |
チキンスープ | 4カップ(800ml) |
B | |
・ ナンプラー | 小さじ2 |
・ シーユーカオ | 小さじ2 |
パクチー | 適量 |
きくらげは水でもどして水けをきり、大きければ食べやすく切る。卵豆腐は4等分に切る。
「タイでは、プリンのようにつるんとしたのど越しの充填豆腐や卵豆腐が一般的。大豆の味が濃い日本の豆腐とは味も食感も異なります。今回は卵豆腐を使いました」
小松菜は熱湯で色よくゆで、食べやすい長さに切る。
「今回はこれから旬を迎える小松菜を使いましたが、青梗菜でもOK。夏はゴーヤを加えるのもお薦めです」
ボウルに豚ひき肉、Aを入れて手で練り混ぜ、ピンポン玉大の肉団子をつくる。
「手のひらに油を塗ると、ひき肉がくっつきにくく、ラクラク丸められます」
鍋にチキンスープを入れて中火にかけ、沸騰したら2の肉団子を加える。火が通ったら、きくらげ、卵豆腐を加える。ひと煮立ちしたら、Bを加えて味を調える。
器に肉団子、卵豆腐、きくらげ、スープを盛り、小松菜を添えてパクチーを飾れば、でき上がり。
ほっとする優しい味と、ふわりと香るマジックペースト。その絶妙なバランスが恋しくて、何度もつくりたくなる「豆腐と肉団子のスープ」。肌寒くなってくるこれからの季節に、ぜひどうぞ。
今回で、みもっと先生の連載は終了です。でも、マジックペーストの使い道はまだまだたくさんあるのだとか。この続きは、みもっと先生の教室やレストランで、こっそり聞いてみてくださいね。
――「みもっと先生の本格タイ料理レシピ。」 了
タイ料理「みもっと」店主、タイ料理教室「おいしみ研究所」主宰。外資系広告代理店勤務を経て、2011年に家の都合によりタイに移住。もともと料理に興味があり、詳しくタイ料理を学ぶ。2012年よりおいしみ研究家・みもっととして活動開始。料理教室やタイ料理のケータリング、出張シェフサービスなどを行うようになる。2019年6月、日本の旬を取り入れた本格タイ料理レストラン「みもっと」を開店。カレーペーストからディップソースにいたるまで丁寧に手づくりするオーセンティックなタイ料理と、そこに寄り添うナチュラルワインを提供する。
文:佐々木香織 写真:森本菜穂子