材料は3つ。潰して混ぜるだけで出来上がる調味料“マジックペースト”をつくろう!この調味料さえあれば、本場のタイの味にぐっと近づく!家でつくるタイ料理が俄然、香り高く、美味しくなる!
目黒駅から権之助坂をてくてく下っていく。目黒川の手前で右折すると、大きなガラス窓の向こうから、ぽおっと灯の漏れる店があらわれる。2019年6月にオープンした「タイ料理 みもっと」だ。
店主のみもっとさんがひとりで調理、サービスを行なう完全予約制のタイ料理レストラン。
厳選されたナチュラルワインとともにタイ料理を楽しむ客で毎夜にぎわっている。
調理法や使用する調味料、ハーブ類はオーセンティックなタイ料理そのものだけど、味つけは日本の気候に合わせて調整する。
「夏は酸味を強めに利かせてさっぱりとした味にしたり、冬になれば油をやや多めにしてこってりとした味に仕上げたり。その季節に美味しいと感じるように加減していきます」
日本の旬の食材を積極的に使うのも、みもっと流タイ料理の特徴だ。
きっかけはロンドンにある“キルン”というタイ料理レストラン。
「鮟鱇(あんこう)や手長海老など、イギリスで獲れた食材で料理を提供していました。でも、ちゃんとタイの味がして美味しかったんです」
タイにはない食材を使ってもかまわないんだ。そう気づいたみもっとさんに、これからの季節ならどんな食材を使うのか聞いてみると、「秋刀魚!タイ料理にとっても合うんです。あとは秋のフルーツ。イチジクもおいしいよ」。
過去にはメバルでトムヤムスープ、チェリーでゲーン(タイのカレー)をつくったこともある。
自由で、柔軟。
そうか。「みもっと」のタイ料理は、みもっとさんのキャラクターそのものなんだ。
みもっとさんには、レストラン店主のほかに、もうひとつの顔がある。
“おいしみ研究所”という料理教室の先生だ。6年ほど前にスタートさせた教室で、レストランの営業時間外に店で催されている。各回完結型というスタイルだ。
その料理教室でこれまでもっとも反響のあったレシピのひとつが、今回教わる「マジックペースト」なのだ。
マジックペーストって、何だ?
「耳慣れないかもしれませんが、タイではいろいろな料理に使われるペーストなんですよ」
材料は、にんにく、白胡椒、パクチーの根。これを石臼でしっかりと潰す。タイなら(最近では日本でも)どこででも手に入る3つの食材で、肉や魚介がたちまち“本場タイの味”になるというから、名前の通り、じつにマジカルなペーストだ。
みもっと先生。
つくり方を詳しく教えてもらえませんか。
にんにく | 4片 |
---|---|
パクチーの根 | 4本分 |
白粒こしょう | 小さじ1 |
にんにく、パクチーの根はみじん切りにする。パクチーの根が太くて硬いときは、縦半分に切って芯を取り除き、外側をみじん切りに。日本のスーパーに並んでいるパクチーにはめったにないけれど、「花が咲きそうな“とうが立った”パクチーは根っこが硬いので、芯を取りましょう」。
石臼に白粒胡椒を入れて粉状になるまで潰す。
みもっと先生が使うのは、左のタイの石臼“クロックヒン”。クロック=臼、ヒン=石の意味。“サーク”という石でできた杵で、ハーブやスパイスを潰して使う。マジックペーストだけでなく、カレーペーストなどタイのあらゆるペーストづくりに欠かせない道具である。「購入する場合、片手で持てる重さのものがお薦めです」。
石臼がなければ、すり鉢で代用できる。ただし、すり鉢ににんにくやパクチーの香りが残ってしまうので、マジックペースト専用と割りきって。「100円ショップで売っているすり鉢で十分ですよ」。
パクチーの根を加えて潰す。パクチーの根が完全に潰れて胡椒となじんだら、にんにくを加えて潰す。にんにくの粒感がなくなり、材料が一体化したら完成。
気がつけば、キッチンがタイの香りで満ちている。
「正体は、パクチーの根の香りですね」とみもっと先生が種明かしする。
爽快なパクチーの根の香りと、胡椒のスパイシーさ、そして、にんにくのガツンと強い香り。これらが一体化しただけで、無性にタイ料理が食べたくなるのだ。目の前には地味な色をしたペーストしかないのに……。
「いろいろな料理に使いますが、ガイヤーン(タイの焼き鳥)という定番料理には欠かせません」
ほかにも揚げ春巻きやえびのすり身のフライ、鶏肉の炊き込みご飯や肉団子のスープなど、さまざまなタイ料理で大活躍するのだそう。
マジックペーストは、おもに肉や魚介の臭み消しと香りづけに使われる。ふだんつくっているから揚げやミートボールなどに加えれば、一気にタイの味になるそうだ。
次回からは、このペーストを使ったタイ料理4品を紹介!
1品目は、タイの焼き鳥「ガイヤーン」をつくっていきます。
――つづく。
タイ料理「みもっと」店主、タイ料理教室「おいしみ研究所」主宰。外資系広告代理店勤務を経て、2011年に家の都合によりタイに移住。もともと料理に興味があり、詳しくタイ料理を学ぶ。2012年よりおいしみ研究家・みもっととして活動開始。料理教室やタイ料理のケータリング、出張シェフサービスなどを行うようになる。2019年6月、日本の旬を取り入れた本格タイ料理レストラン「みもっと」を開店。カレーペーストからディップソースにいたるまで丁寧に手づくりするオーセンティックなタイ料理と、そこに寄り添うナチュラルワインを提供する。
文:佐々木香織 写真:森本菜穂子