鶏肉をゆで、そのゆで汁でご飯を炊いてひと皿に盛り合わせる「カオマンガイ」。せっかくなら丸鶏を使おう!なぜって、ゆで汁のおいしさが格段に違うし、鶏油(チーユ)だってしっかり取れるから!カオマンガイに添えるディップだって手づくりできる。マジックペーストの香り、余すところなく使う丸鶏、酸味の利いたディップで、食卓にタイの風が吹く!
「カオマンガイ」を知っていますか?
知らないという人も「海南鶏飯(ハイナンジーファン)」なら聞いたことがあるのでは?
鶏肉をゆで、ゆで汁でご飯を炊く。これらをひと皿に盛り合わせた料理が、カオマンガイであり、海南鶏飯。タイやシンガポールなど、おもに東南アジアで広く食べられていて、日本にも専門店ができるほど、ここ数年でぐんとポピュラーな料理となっている。
カオマンガイの魅力は、米の芯まで“鶏の味”がするところ。いろいろなレシピがあるけれど、「鶏の旨味をまるごと味わうなら、丸鶏を使いましょう」と、みもっと先生は言う。
丸鶏でつくるメリットは、皮や骨の美味しさを余すことなく生かせること。
骨はゆで汁(スープ)の旨みに、皮や手羽からは鶏油(チーユ)を取ってコク出しに使う。
〆たての新鮮な丸鶏が手に入れば最高だが、冷凍ものでも問題なし。
「ひと晩かけて冷蔵庫で解凍し、塩でしっかりもんで筋肉を柔らかくしてからゆでれば大丈夫です」
調理のポイントは鶏をゆですぎないこと。時間通りにゆでたら、余熱で肉が硬くならないように、すぐに氷水にとることが大事だ。
米は鶏油で炒めてから炊くが、その前に炒めるのが、マジックペースト。
「炒めものをつくるとき、主役の食材を炒める前に香味野菜を炒めて香りを立たせますよね。にんにく、白胡椒、パクチーの根でつくるマジックペーストも、同じように炒めて香ばしさを引き出します」
マジックペーストを加えることで、鶏油の臭みが押さえられ、ご飯が香りよく炊き上がるのだ。
前回の「ガイヤーン」や「トードマンクン」に比べれば、時間も手間もかかる「カオマンガイ」。けれど、頑張った分だけ、美味しさはちゃんとついてくる。
丸鶏は裏切らない。ぜひ、チャレンジを!
★ ゆで鶏 | |
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・ 丸鶏 | 1羽分(約1.5kg) |
A | |
・ 生姜 | 1片分(薄切り) |
・ バイトーイ | 2枚(英語でパンダナスリーフ、またはパンダンリーフという甘い香りのするタコノキ科の葉) |
・ 塩 | 大さじ1 |
★ チキンライス | |
・ タイ米 | 4合(ジャスミンライス) |
・ 鶏油 | 大さじ3~4(つくり方は工程3を参照) |
・ マジックペースト | 大さじ2 |
・ 丸鶏のゆで汁 | 740ml |
・ 塩 | 小さじ1弱(3~4g) |
・ 砂糖 | 小さじ1弱(3~4g) |
パクチー | 適量 |
丸鶏は塩適量(分量外)をまぶしてもみ込み、水で洗う。これを全部で3回行なう。首の皮と左右の手羽は切り落とす(3で使用する)。
「塩をバサーッとたっぷりふって、もみもみします。しっかりもんでおくと、硬くなった筋肉がほぐれて、肉質が柔らかくなるんです」
大きめの鍋に鶏の背側を上にして入れ、かぶるくらいの水を注ぎ、Aを加えて中火にかける。沸騰したら弱火にし、蓋をして30分ほどゆでる。
「Aのバイトーイは、タイでは料理や菓子の香りづけや色づけに欠かせないもの。今回は鶏肉の臭み取りに使います。なければ、ねぎの青い部分で代用してもいいですよ」
ゆで上がった鶏を鍋から取り出し、氷水に浸して鶏が常温になるまで冷ます。
「ゆですぎは肉が硬くなるので禁物。時間通りゆでたら、鍋からすぐに取り出しましょう」
1で切り落とした首の皮や左右の手羽をフライパンに入れ、ときどき混ぜながら弱火で30~60分かけて脂を抽出する。泡が出なくなったら抽出完了のサイン。
フライパンに3の鶏油を中火で熱し、マジックペーストを炒める。香りが立ったらタイ米を洗わずに加えて炒める。米が透明になってきたら鍋に移し、鶏のゆで汁、塩、砂糖を加えて中火にかけ、沸騰したら蓋をし、弱火で15分ほど炊く。火を止め、さらに15分ほど蒸らす。
「炊飯器でつくる場合は、米を炒めたあとに内釜に入れ、鶏のゆで汁、塩、砂糖を加えて普通に炊けばOKです」
鶏肉の粗熱が取れたら、皮目に包丁を入れ、両もも肉を外す。鶏肉の中央に縦に包丁を入れ、左右に開いて胸肉を外す。もも肉、胸肉をそれぞれ食べやすい大きさに切る。
「ホムデンはタイの小玉ねぎのことで、タイでは風味づけの必需品です。紫玉ねぎに似ていますが、まったくの別物。ホムデンには辛さがほとんどないので、紫玉ねぎで代用する場合は分量を半分に減らしてくださいね」
みそ | 大さじ3 |
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砂糖 | 大さじ1 |
ライム果汁 | 1/2個分 |
生姜のみじん切り | 大さじ3 |
にんにくのみじん切り | 大さじ1 |
ホムデンのみじん切り | 大さじ2(タイの小玉ねぎ) |
青唐辛子のみじん切り | 1本分(生) |
本場ではタイのみそ「タオチオ」でつくるが、日本のみそで代用。みそとライムの組み合わせが意外なほどよく合う。野菜スティックのディップにも◎。
器にチキンライスを盛り、もも肉と胸肉をのせてパクチーを添える。ディップをたっぷりとかけて召し上がれ。
「カオマンガイに使わなかったささ身は、サラダやスープなどの具にするとよいでしょう。身をほぐしてきゅうりのせん切りを添え、ディップをたらりとかければ、バンバンジー風の一品になります」
次回(最終回)は、残った鶏のゆで汁を活用した豆腐のスープをご紹介します(ちなみに、ゆで汁は清潔なペットボトルに入れて冷凍すれば、1ヶ月くらい日持ちします)。
――つづく。
タイ料理「みもっと」店主、タイ料理教室「おいしみ研究所」主宰。外資系広告代理店勤務を経て、2011年に家の都合によりタイに移住。もともと料理に興味があり、詳しくタイ料理を学ぶ。2012年よりおいしみ研究家・みもっととして活動開始。料理教室やタイ料理のケータリング、出張シェフサービスなどを行うようになる。2019年6月、日本の旬を取り入れた本格タイ料理レストラン「みもっと」を開店。カレーペーストからディップソースにいたるまで丁寧に手づくりするオーセンティックなタイ料理と、そこに寄り添うナチュラルワインを提供する。
文:佐々木香織 写真:森本菜穂子