埼玉は八潮の「カラチの空」の門を叩き、看板メニューの“マトンコルマ”のレシピを教えてくださいとお願いすると、店主のザヒット・ジャベイドさんの返事はOK!さっそく厨房で、手加減なしの本格レシピを教わりました。新鮮なスパイスと骨付きのマトンさえ手に入れば、あなたの家にパキスタンの風が吹きますよ!
マトンコルマとは羊肉を使ったカレーのこと。インドにも同名の料理があるが、パキスタンのものとは大きく異なるようだ。ヨーグルトをベースにした北インドのカレーを“korma(コルマ)”と呼ぶようだが(これも諸説あり)、「カラチの空」のマトンコルマはヨーグルトを加えていない。
そもそもパキスタンでは、カレーのことを“salan(サラン)”と呼ぶ。でも、マトンでつくると“コルマ”に名前が変わるというから、ややこしい。
では、サランとコルマは何が違うのか。ザヒットさんに問うても「うーん……よくわかりません」との回答でした。それでも、さらに話を聞くうちに、コルマとサランの共通点が見つかった。
なんとなくわかったコルマとサランの共通点をまとめてみた。とはいえ、これまた諸説あるらしく、悩ましいのですが……。
① フレッシュなトマトをたっぷり使うこと。このトマトがソースの基本となります。
② 玉ねぎ、にんにく、生姜もたっぷりと。玉ねぎをケチってはいけません!
③ スパイスは惜しげなく。ただし、ターメリック、レッドチリペッパー、仕上げのガラムマサラ、ブラックペッパー以外はホールスパイスを使うこと。「コルマの素」なんて厳禁。「パキスタンのカレーはホールスパイスでつくるものなんです」。
ソースを煮込むときに骨から旨味が溶け出すので、マトンはぜひ骨付きを。肉をつかんで骨までしゃぶるのも、マトンコルマの醍醐味だ。骨付きぶつ切りの冷凍マトンは、新大久保イスラム横丁で入手可能。
パキスタン料理はおおまかに、北部のパンジャーブスタイルと南部のカラチスタイルにわけられ、カラチスタイルのほうが辛いといわれている。ザヒットさんもシェフもラホール出身なので「カラチの空」の料理は、ほとんどが辛さマイルドなパンジャーブスタイル。
ところが、このマトンコルマ、日本人の舌にはけっこう辛い。辛い味が苦手な場合は、レッドチリペッパーを減らすなど調整を。その際はソースの色が変わらぬよう「レッドチリペッパー>ターメリック」の比率を必ず守ること。
・ マトン | 1kg(骨付きぶつ切り) |
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・ トマト | 中4個(500g)(4等分のくし形切り) |
・ 玉ねぎ | 大1/2個(150g)(横薄切り) |
・ にんにく | 大さじ2(すりおろす) |
・ 生姜 | 大さじ2(すりおろす) |
A ブラックカルダモン | 2個 |
A グリーンカルダモン | 4個 |
A 八角 | 2個 |
A クローブ | 12粒 |
A ベイリーフ | 2枚 |
A シナモン | 4g |
A クミンシード | 大さじ1 |
A 黒胡椒 | 小さじ1(粒) |
A レッドチリペッパー | 小さじ2 |
A ターメリック | 小さじ1と1/2 |
A 塩 | 大さじ1 |
A 水 | 250ml |
・ サラダ油 | 100ml |
・ フライドオニオン | 15g |
・ 牛乳 | 100ml |
・ 黒胡椒 | 小さじ1(粗挽き) |
・ ガラムマサラ | 小さじ2/3 |
・ 生姜 | 適量(細切り/仕上げ用) |
・ しし唐 | 適量(斜め薄切り/仕上げ用) |
圧力鍋にマトン、トマト、玉ねぎ、にんにく、生姜、Aを入れ、蒸気が逃げるよう蓋をして強火にかける。沸騰したら弱〜中火にして、ときどきヘラでトマトを崩すように混ぜながら煮る。トマトの形が崩れたら強火にし、20分加圧して火を止める。圧力鍋の蒸気が抜けたら蓋を取り、弱火でときどき混ぜながら、とろみがつくまで煮詰めていく。
圧力鍋を使わない場合は、鍋にマトン、トマト、玉ねぎ、にんにく、生姜、Aを入れ、蓋をして強火にかける。沸騰したら弱~中火にして煮る。野菜の形が崩れるまで煮たら蓋を取って弱火に。ときどき混ぜながらとろみがつくまで2時間ほど煮詰めていく。途中で水分が少なくなったら、適宜水を足す。
サラダ油を加えて、中火でときどき混ぜながら7~8分煮る。
フライドオニオン、牛乳を加えてよく混ぜたら、ブラックペッパー、ガラムマサラを加える。弱火にして、ときどき混ぜながら5分ほど煮る。器に盛りつけて、生姜としし唐をのせる。
1965年、パキスタン・ラホール生まれ。実家の稼業はラホールの高級レストラン。18歳のときに来日。横浜の電子機器会社に22年間勤務した後、ラホールからシェフを呼び寄せ、埼玉県八潮市にあるレストラン「カラチの空」オーナーに。日本人に忖度しない現地そのままの味が評判を呼び、日本人とパキスタン人両方の客で連日賑わう人気店となった。
「パキスタンでは全粒粉を使った“ロティ”と一緒に食べます」。ザヒットさんは教えてくれた。でも「ナンやバスマティ米と食べてもおいしいよ」ということなので、お好みでどうぞ~。
文:佐々木香織 写真:本野克佳