“マトンコルマ”の次にザヒットさんに教わったのは“チキンカラヒ”。30分もの間、鍋から手が離せないため、店では予約限定で提供されるメニューだ。食材それぞれのおいしさが極限まで引き出される、奥深いパキスタンの煮込み料理に、ぜひ挑戦してみてください!
“チキンカラヒ”はパキスタンを代表する料理のひとつ。レストランだけでなく、家庭でもつくることはあるが「手間がかかるので、来客のもてなしやお祝いのときにつくります」とザヒットさんは言う。
“カラヒ”とは、両手の中華鍋(広東鍋)に似た煮込み専用の鍋のこと。韓国の“チゲ”と同じように、鍋の名前がそのまま料理名になっている。
「カラチの空」の厨房で使われていた鍋は側面に細かい凹凸があり、相当年季が入っていた。日本ではなかなか手に入らないものなので、家でつくる場合は、中華鍋か深めのフライパンを使うといいですよ。
ザヒットさんだけでなく、パキスタン人と話しをすると「1kg用のカラヒ」といった言い方をする。つまり、メインとなる具(今回なら鶏肉)の重量で鍋のサイズをあらわすのだ。
レシピもしかり。日本のレシピのように「4人分」などとは言わず、「1kg分」というのが一般的だ。
パキスタンでは、新鮮で旨味の濃い、〆たての鶏肉でつくるが、日本ではめったに手に入らないので、旨味を補うためにも骨付き肉を使うのがベターだ。
鶏肉のほかに、カラヒにはフレッシュなトマト、玉ねぎ、生姜、青唐辛子、スパイス、ヨーグルトが欠かせない。そして、驚くほど大量の油も。鍋にサラダ油を加えるとき、あまりの量に躊躇しそうになるが、肉と野菜の凝縮された旨味とヨーグルトのコク、油がつくり出す「もったり感」こそが、チキンカラヒのおいしさだ。
ビールのつまみとしてそのまま食べるもよし、バスマティ米にかけるもよし、ナンにからめるもまたよし。止まらないおいしさに、1kgの鶏肉も2~3人でぺろりといけてしまう!
・ 鶏もも肉 | 1kg(骨付き&ぶつ切り&皮なし) |
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・ トマト | 中4個(500g)(4等分のくし形切り) |
・ 玉ねぎ | 中1/4個(60g)(横薄切り) |
・ にんにく | 大さじ2(すりおろす) |
・ 生姜 | 大さじ2(すりおろす) |
プレーンヨーグルト | 150g |
サラダ油 | 125ml |
クミンシード | 小さじ2 |
A 塩 | 小さじ2 |
A レッドチリペッパー | 小さじ2 |
A ターメリック | 小さじ1と1/2 |
B しし唐 | 2本(5mm幅に切る) |
B 青唐辛子 | 1本(5mm幅に切る) |
B 生姜 | 8g(細切り) |
B 黒胡椒 | 小さじ1(粗挽き) |
B ガラムマサラ | 小さじ1と1/2 |
トマト | 適量(薄切り/仕上げ用) |
生姜 | 適量(細切り/仕上げ用) |
しし唐 | 適量(斜め薄切り/仕上げ用) |
カラヒ(なければ中華鍋)にサラダ油を強火で熱し、鶏肉を炒める。肉の表面の色が変わってきたら、にんにく、生姜を加えて炒める。肉全体に絡んだらクミンシードを加え、肉の表面が完全に白くなるまでしっかり炒める。
1にトマトを加えて中火にし、炒める。トマトから水分が出てきたらAを加え、ヘラでトマトをつぶすように混ぜながら5分ほど煮る。
玉ねぎを加え、ときどき混ぜながら5分ほど煮る。汁気が煮詰まってきたら強火にし、ヨーグルトを加えて混ぜながら5分ほど煮る。
Bを加えて弱火にし、混ぜながら3~4分煮る。とろみがついたら火を止める。皿に盛り、飾り用のトマト、生姜、しし唐をのせて召し上がれ。
1965年、パキスタン・ラホール生まれ。実家の稼業はラホールの高級レストラン。18歳のときに来日。横浜の電子機器会社に22年間勤務した後、ラホールからシェフを呼び寄せ、埼玉県八潮市にあるレストラン「カラチの空」オーナーに。日本人に忖度しない現地そのままの味が評判を呼び、日本人とパキスタン人両方の客で連日賑わう人気店となった。
次回は、パキスタン大使館に協力を仰ぎ「カラチの空」のパンジャーブスタイルとはまた違った、イスラムごはんのレシピが登場します!
――つづく。
文:佐々木香織 写真:本野克佳