「インネパ食堂」で飲む!
ガード下のインネパ居酒屋は、飲みの"締め"も充実していた──御徒町「サウリャ」後編

ガード下のインネパ居酒屋は、飲みの"締め"も充実していた──御徒町「サウリャ」後編

地域のコミュニティに溶け込むインネパ居酒屋「サウリャ」は、飲みの締めも充実した酒場だった──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第8回目は、インネパ飲みの「締めの一品」について考えてみました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

前回に引き続き東京・御徒町のガード下の店「サウリャ」でインネパ飲みを楽しみます。

外観
御徒町「サウリャ」。
店主のシルワル・スレスさん(右)とシルワル・ソニーさん夫妻。
店主のシルワル・スレスさん(右)とシルワル・ソニーさん夫妻。

息子が泣くと、近所の人があやしてくれた

前編では“ネパール meets 居酒屋”つまみで酒を飲みまくった一同ですが、「サウリャ」にはほかにも気になる料理が目白押し。ここで満を持してオーダーしたのが、“マトンスクティ”。スクティはネパールの干し肉。ハードな噛みごたえとスパイシーさが酒に合う、ネパールつまみの代名詞です。「サウリャ」のスクティは、硬すぎずにほどよく食べやすく、われわれの飲むペースもギアが1段上がってしまいます。

マトンスクティ
マトンスクティ770円。
小林
この店にはビールやサワー、ホッピーはもちろんのこと、日本酒の人気銘柄からワイン、カクテルまでがソツなく揃っています。そんなところにも、“来日2世”ならではの気の利き方を感じますね

そう話しながら小林さんが頼んだのは、ネパールのラム酒・ククリラムをコーラで割った、おなじみの“ラムコーク”。もちろん、酒を濃くする秘密の呪文とともに(※秘密の呪文については連載第5回目を参照ください)。

一方田嶋は、ネパール産ウィスキー“オールドダルバール”をロックでいただきます。特に右側のブラックチムニーはスモーキーな風味がキリッと立ち、濃いスパイス料理とよく合います。

ネパール産ウィスキー“オールドダルバール”グラス
ネパール産ウィスキー“オールドダルバール”グラス657円。

そうこうしているうちに、店主であるスレスさん&ソニーさん夫妻の小学生の息子さんが、ランドセルを背負って店にやってきました。今日は、地元の野球クラブの練習帰り。夕食はいつもお店で食べるといいます。

ソニーさん(妻)
野球の日は、コーチの方が車で送り迎えしてくれるので、助かっています。私は父が経営していた時代からこの店で働いていますが、この子が赤ん坊だった頃、店内が狭くてベビーカーを置けず、店の外に置いたまま働いていました。息子が泣くと、よく周りの方々があやしてくれましたね

その後2019年、先代から店を引き継ぎ、店名を「サウリャ」として再スタートを切った。

ソニーさん(妻)
「サウリャ」とは「太陽の力」という意味です。そして、実は息子の名前でもあります。店名を息子の名にしてしまったので、私たちはがんばり続けないといけないんです(笑)
ムスク
店の斜向かいにはイスラム教のムスクがある。御徒町は宝石商が多いこともあり南インドやスリランカ人も多かったが、最近ではネパール人の姿も多い。
インド食材店
「サウリャ」の並びにはインド食材店がある。店頭ではサモサやチャイも販売。

飲みの締めには……ダルバート? ネパールラーメン?

人情味あふれる話を伺い、にわかにウルッとくる一同。そこに、オーダーした“春巻き”と“スパイシーオムレツ”が到着。春巻きは添付のスイートチリソースがよく合い、スパイシーオムレツはパプリカが絶妙なアクセント。いやあ、本当に何食べてもおいしい。

春巻
春巻き547円。
スパイシーオムレツ
スパイシーオムレツ550円。
田嶋
インネパ店に来ると、不思議と「昭和の下町」的な空気を感じることが、よくあります。スタッフやお客の子供が店内で遊んでいたり、古い設えがそのまま使われていたり、お店側とお客の距離が近かったり……
小林
昭和の空気を感じるといえば、ネパールにトレッキングをしに行く中高年の日本人の方々からは、こんな声もよく聞きます。「ネパールに行くと、そこで暮らすネパール人の方々が、まるで自分たちが若い頃に通ってきた時代をいま生きているようで、無性にグッときます」と。それこそ「三丁目の夕日」ではないですが、街の風景や、そこにいる人たちの飾らないマインドに、どこか共通するノスタルジーを感じるんでしょうね
田嶋
実際に日本でも、インネパ店は下町と相性がいいように思います。この店にも、地元の人たちが家族連れで訪れたり、地域のコミュニティに溶け込んでいるようですね

ここで、ついに(連載8回目にしてようやく?)“ダルバート”が登場。ダルバートは、豆のスープにごはん、スパイシーなおかずなどがセットになったネパールの定食。食事としてはもちろん、飲みの締めにも最高……なのですが、実は、ダルバートは酒のアテとしても打ってつけなんです。

ダルバート
ダルバート1,100円。
田嶋
ここのは本格的だし、塩とスパイスがきまっていて、酒がまた進んじゃうな〜。僕は、ダルバートをつまみに酒を飲むのが大好きなんです。しかし、インネパ店といえど、本格ダルバートを置く店はまだ一部に限られますね
小林
だからこそ、本格ダルバートがメニューにあるということは、本格的なネパール料理を出すということでもある。その店はインネパ飲みの酒場として、かなり期待できます

さらには編集Mが「麺料理もある!」と興奮気味に見つけたのが、なんと“ネパールラーメン”なるメニュー。

ネパールラーメン
ネパールラーメン770円。
小林
こちらは、野菜や肉の入ったネパールの汁あり麺"トゥクパ"を、中華麺に変えたものですね
編集M
見た目は日本の味噌ラーメンのようですが、野菜と鶏のダシにスパイスが効いたあっさり味。飲みの締めにはたまりません! 締めの選択肢に汁あり麺が加わるとなると、これは悩ましい問題ですよ

呑ん兵衛のツボをバッチリ押さえた飲み屋であり、カレー好きやネパール料理好きの心もしっかり満たしてくれる。そんなインネパ食堂が、御徒町の地にありました。そしてあらためてしみじみ思うのです。ガード下の酒場は最高だ!

次回は、インネパ食堂なのに、なぜか「タイ料理」をアテに飲みまくります。お楽しみに!

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

サウリャ アジアンダイニング&バー
  • 【住所】東京都台東区上野5‐10‐11 2階
  • 【電話番号】03‐3836‐1223
  • 【営業時間】11:00~23:00(L.O.)
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】JR「御徒町駅」より徒歩2分

文:田嶋章博 写真:田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。