そのネパール人店長は、驚くべき経歴を持っていた──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第27回目は、インネパ店の多彩なメニューの背景にある事情を考察する、ちょっと深い飲みとなりました。
近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。
※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。
案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。
今回のお店は、前回・前々回に引き続き、雪が谷大塚「シッダールタパレス」。ネパール人店長にメニューの成り立ちを尋ねたところ、バイタリティあふれる“小史”がそこにはありました。
同店のめくるめくスパイス料理とともに、気持ちよく飲み進めてきた3人。ここであらためて、同店の多彩な料理ジャンルをおさらいしてみましょう。
南インド料理、北インド料理、ビリヤニ、さらにはタイ料理、ベトナム料理、中華料理、韓国料理、ベンガル料理、パキスタン料理。
なぜこれほど幅広い料理を出せるのか、店長に聞いてみることにしました。その前に、もう一品食べたい!ということで、南インド料理の“ケララマトンカレー”をオーダー。
ココナッツミルクのほのかな甘さと、チリのガツンとくる辛さ。セミドライのグレービーにはコクが凝縮され、そこにテンパリングしたカレーリーフ、さらには珍しい生のカレーリーフの清涼なアロマが匂い立っています。
ここでふと、小林さんが聞いたことのないお酒を注文。
さて、そのお味は……。
さて、あらためて同店のメニューについてです。ネパール人店長のサプコタさんは、こんな話をしてくれました。
どうして、これほど品数豊富な南インド料理や、他のアジア料理を出せるのでしょうか?
さらにサプコタさんには、ユニークな経歴がありました。
そんなお話のさなかに、もう一品、南インド料理が登場しました。粗挽きの小麦粉でつくる非発酵ドーサ“ラバドーサ”です。スパイスが練り込まれた生地はこんがり焼かれ、もっちりしています。それを豆と野菜のカレー・サンバルや、ミントのチャトニを付け付け食べると、これも強力な酒肴と相成ります。
そんなサプコタ店長が、締めのチャイを持ってきてくれました。ミルクがたっぷり入り、スパイスと大量のアルコールでほてった体を、ふわりと包み込みます。
インネパ店が出す多彩なメニューは、いわばそこで働くネパール人の誇るべき“履歴書”。少し踏み込んで話を伺えば、飲みが一段奥深いものになり得ます。「シッダールタパレス」はそれを実感させてくれる、素敵で楽しいインネパ食堂でした。
インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/
文:田嶋章博 写真:小林真樹、田嶋章博、編集部