「インネパ食堂」で飲む!
ガード下のインネパ居酒屋で、本気(マジ)飲み!──御徒町「サウリャ」前編

ガード下のインネパ居酒屋で、本気(マジ)飲み!──御徒町「サウリャ」前編

御徒町のガード下に、気の利いた酒肴がずらりと揃ったインネパ酒場を発見!──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第7回目は、インネパの“次世代形態”ともいえる店で、またしても飲み&食べまくりました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回訪れたのは、東京・御徒町「サウリャ」。そこには、日本人の感性に寄り添ったインネパ酒場の姿がありました。

外観
御徒町「サウリャ」。店は階段を上がって2階に。ちなみに、dancyuでもお馴染み味坊集団「老酒舗」の隣にあります。

日本の居酒屋メニューをスパイシーにアレンジ

御徒町駅南口を出て2分ほど歩いた所にある、インネパ酒場「サウリャ」。店の立地はいわゆるガード下で、並びには居酒屋の看板を掲げた店も多数。一同、呑ん兵衛の血が騒ぎ出します。

壁
メニュー

入店して驚かされるのが、日本の居酒屋的なチューンナップぶりです。壁には“せんべろ祭”と銘打ったお得なセットメニューが張られ、黒板メニューを見れば、“刺し身とろゆば”“長芋のわさび醤油漬け““ち~とろ焼き”などの文字も。えーと……ここ、インネパ店でしたよね!?

まずはホッピーとともに、前菜よろしく“チキンサラダ”を頼みます。チキンサラダに乗るのは、タンドリー窯で焼いたチキンティッカ。

チキンサラダ
チキンサラダ536円。
ホッピー
小林さん、1杯目はホッピー!
田嶋
焦がしメティとチリがビシッときまり、のっけからスパイシーでうまい!

続いて到着したのは、“マトンの串焼き”。日本の串焼きのスタイルにネパールの味付けをミックスした、同店オリジナルのメニューです。

マトン串焼き
マトン串焼き767円(2本)。
メニュー
マトン料理も種類豊富!
小林
独特の風味を持つマトンを、ネパール山椒“ティムル”とチリ、塩でシンプルに味付けしています。他のインネパ店には、ありそうでなかなかない逸品ですね
編集M
いやあ、これサイコーです。“足し算”的な料理が多いインネパ店にあって、“引き算”的な料理であるところが新鮮!

そこに、ジュ~ッ!と盛大な音を立てながら運ばれてきたのが、“ビッグミートボール”。鶏もも肉に数種のスパイスを加えてハンバーグ風に仕上げたもので、ふわふわのボディに卵が妖艶にからみます。これもクミンやチリが効き、なかなかにスパイシー。

ビッグミートボール
ビッグミートボール528円。
田嶋
見た目は居酒屋のメニューにありそうな“ジャンボつくね”、なんだけど、一口食べればこれは完全にインネパつまみですね。他の店では食べられないオリジナリティがありつつ、純粋に料理としてのレベルが高いですよね
小林
日本の居酒屋の要素を積極的に採り入れていますが、それを無理してやっている雰囲気がまったく感じられないところもいいですよね。日本の居酒屋文化とネパールの酒飲み文化が、絶妙に混ざっている感じがします

ネパール人の店にして、なぜ、これほど居酒屋としての“こなれ感”があるのでしょう!? 店主を務めるスレスさん・ソニーさん夫妻に話を聞いてみると、この独特の匙加減は、どうやら2人の来歴に由来することがわかりました。

夫妻
店主のシルワル・スレスさん(右)とシルワル・ソニーさん夫妻。

15歳で来日し、長く日本の文化に触れてきた

ソニーさん(妻)
実はこの店はもともと父が手掛けていて、私もずっと手伝ってきました。そして2019年、お店を父から私と夫が引き継ぐことになり、店名も新たに再スタートしたんです。父の時代はレストランの比重が高かったのですが、再スタートにあたっては酒場の要素を強くしました。私自身は、15歳の時に来日し、すでに日本に18年間います
スレスさん(夫)
私は13年前に来日し、日本語学校と専門学校を経て、日本の「とり鉄」という居酒屋チェーンで約9年働きました。だから日本の居酒屋メニューをいろいろ作れるんです

そんなやりとりをしているうちに、“本日の小魚揚げ”が到着。この日は、ししゃもよりもやや大振りな“チカ”という白身魚で、淡白でいて脂も程よくのった身にスパイスが絡み、これまた良きアテに。

本日の小魚揚げ
本日の小魚揚げ(チカ)603円。

小魚揚げには、日本酒もきっと合う! ということで、ドリンクメニューから日本酒を注文。店主のスレスさんは日本酒もお好きだそうで、自分で飲んでおいしいと思った銘柄を置いているのだとか。

日本酒を注文すると、スレスさんが微笑みながら酒器をテーブルに用意。一升瓶から片口へ酒をなみなみ注ぐと、傍の猪口へとちろちろと流れ込む。まるで日本庭園の“つくばい”のような、なんとも和の情緒あふれる演出! もう一度言います。ここ、インネパ店でしたよね!?

酒器
楽しい演出!
この日の酒は、秋田酒造「秋田晴」純米酒786円。
小林
この店の気の利き方や、居酒屋文化へのなじみ方は、“来日2世”ならではともいえますよね。若くて感性がやわらかなうちから日本で暮らし、日本の文化に触れてきたからこその“機微”のようなものを、店のあちこちに感じます
田嶋
こういう日本人の感性に寄り添ったスパイス料理を出すお店がもっと増えてくれたら、素晴らしいですね
小林
日本のあちこちにこれだけ多くのインネパ店があるだけに、今後こういう2世の店もどんどん出てくるでしょうね

いうなれば、来日ネパール人2世が手掛ける“進化系インネパ酒場”である、ここ「サウリャ」。後編では、さらにディープに飲み食いしつつ、地域のコミュニティに溶け込む店の魅力を深掘りします。

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

サウリャ アジアンダイニング&バー
  • 【住所】東京都台東区上野5‐10‐11 2階
  • 【電話番号】03‐3836‐1223
  • 【営業時間】11:00~23:00(L.O.)
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】JR「御徒町駅」より徒歩2分

文:田嶋章博 写真:田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。