吉祥寺の商店街には、街並みにすっかり溶け込んだ老舗があった──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第28回目は、インネパ店の“第一世代”とも言える店で、不思議な親近感を覚える酒肴を堪能しました。
近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。
※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。
案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。
今回訪れたのは、インド・ネパール料理店を代表する名店。そこには、老舗ならではの歴史と味わいがありました。
吉祥寺駅から、徒歩5分ほど。人でにぎわう中道通り商店街を少し進んだところにあるのが、吉祥寺が誇る老舗「ナマステカトマンズ」です。
さて、約1年にわたりお送りしてきた当連載ですが、多くのインネパ名店を訪問できたこともあり、ひと区切りをつけることになりました。今回は連載“最終飲み”の前編です!
お互いを労いつつ、まずは乾杯。小林さんが注文したのは、この連載ですっかりお馴染みとなったラムラッシー!
さらには、大根の漬物“ムラコアチャール”。こちらはよく漬かっていて、深いコクと旨味に満ちています。
小粋なスターターを前にして、呑んべえたちのスイッチがパチンと入ります。
そんな話をしているさなかに、さっそく多彩なメニューの1つが到着しました。その名も“細メン焼きそば“。
次に登場した料理も、なかなかユニークなでした。ネパール風焼き餃子“コテ”です。肉厚のもっちりした皮が特徴で、アンはあっさり味で日本の餃子に近いものがあります。添付のタレは、ネパール山椒・ティムルの効いたトマトアチャール=ゴルベラコアチャール。
それにしてもネパールの餃子といえばモモがおなじみで、同店のメニューにはモモもあるのですが、なぜこれは“コテ”の名前なのでしょう?
まさに第6回でも紹介した、メニューの行間を読み取る、スローリーディングの極意!
さらにもう1品、タンドール窯で焼いた子羊の骨付き肉“ラムチョップ”を注文しました。肉はやわらかくてジューシー。そこにスパイスと酸味が程よく効き、我を忘れてむしゃぶりついてしまいます。
まるで実家のように親しみやすい雰囲気に、これまた日本人が親しみを覚える料理たち。老舗インネパ店が長年愛されてきた理由の本質を垣間見た夜となりました。
さらに後編では、シュレスタさんの粋なはからいにより、同店のもう一つの凄みを発見することになります。お楽しみに!
インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/
文:田嶋章博 写真:小林真樹、田嶋章博、編集部