東京・錦糸町にある「きっちん浜家」は、とんかつが旨いのはさることながら、ご主人の人柄も最高な下町とんかつが味わえます。午後に備えるランチタイムに、仕事上がりの労いに、いいことがあったときのご褒美に。旨いとんかつ店を知っていれば、人生は最高になる。
自分の生活圏に揚げ物の旨い定食屋が存在することは、なんという幸福だろう「浜家」を訪れるたび、いつもそう感じる。錦糸町で働く人たちでランチは常に満席となるこの店の主人・浜屋憲弘さんは、もともとホテルでフレンチのシェフとして腕を振るっていた。48歳のときに洋食店として店を構えたが、客の要望に応えるうちに揚げ物ばかりがメニューに増えた。「とんかつなんてつくったことないし、キャベツのせん切りもやったことなかったんだから」。しかし本人の意に反し(?)揚げ物は評判を上げ、なかでもロースカツは看板となった。
ここのロースカツの本領を味わうなら、ぜひ夜に訪れることを薦めたい。ランチよりもさらに厚く切った岩手県産の豚肉に粗めのパン粉をまぶし、結構しっかりめに揚げるのだが、肉は綺麗なピンク色。人によってはレアに感じるかもしれないが、浜屋さんは「これぐらいの火の入り具合が美味しいと思うんだよねぇ」と目を細める。柔らかな肉を噛めば、澄んだ脂の旨味がジュワッとあふれて、口の中でサラリと消えていく。「こだわり?そんなもんないよ(笑)。素材が良けりゃ、大体旨くつくれるから」。そんな軽口に笑いながら頬張る「浜家」のロースカツは、なんだか幸せの味がする。
文:宮内健 写真:長谷川潤
※この記事の内容はdancyu2018年10月号に掲載したものです。