料理人やスタッフの元気の源まかない。東京・銀座にあるフレンチレストラン「レストラン ラフィナージ」のまかないは、スタッフがシェフになるまでに学ぶべきポイントが隠されていました。まかないの調理場を覗き見します。
高良康之シェフが、店のまかないについて話す。
「作っているのは若手の二人。和洋中、メニューはなんでもOKです。作ってみたい料理があれば、それ用に材料の仕入れをしてもいいと話してあります。自由度は高いと思いますよ。ただし、まかないは、“人の時間を使わせてもらって”作っているものです。普段の仕事を滞らせないように作らなきゃならないし、時間にきちんと間に合うように作らなければ、みんなの休憩時間も減ってしまう。内容も大切ですが、“みんなの時間を考える”こともとても大切です」
なるほど、確かにそうである。話はさらに続く。
「そして、まかないであっても相手に対する“気遣い”ができなきゃいけない。味噌汁が濃過ぎたら、さっと席を立ってお湯を足せるか。薄ければ味噌を足せるか。そのままにして、ちょっと濃いけどまあいいか、ということはよくない。まかないといえども、食べる相手がいるわけです。“人にお出しする”ということをどう考えているか。こうした普段からの姿勢が、そのまま営業中のお客様への気遣いにつながるんです」
当たり前なのだろうが、なかなか厳しい話である。しかし、若手の二人の逞しいこと!
シェフの要求を察して仕事を滞らせることなく、この日も手際良くまかないを仕上げた。メニューは油淋鶏だ。
お裾分けしていただき、口にしたら、中華料理店顔負けの味である。中心となってまかないを作っているのは佐竹洋幸さん。朝から下味をつけた鶏肉に、片栗粉をつける前に卵を絡ませるのがカリッと仕上げるポイントだと話してくれた。他のスタッフによると、佐竹さんは特に中華が得意で、麻婆豆腐などもみんなに人気なのだそう。サラマンダーの横で大根を乾燥させて切り干し大根を作ったり、漬物を作ったりもしている。
もう一人のまかない料理人、木村裕太さんは、今度親子丼を作ってみたいといい、名店と言われる親子丼の味はどんなものかと、人形町の「玉ひで」に食べに行ったそうだ。
この日のまかないを食べながらシェフに、「どうだったか」と玉ひでの感想を聞かれ、「並びました。一番高いのを食べてきました」とにこやかに話していた。まかないタイムは笑いに溢れた楽しいひと時だ。
実は、ラフィナージュのまかないはランチ営業前にもある。サンドイッチやパスタなど、さっと食べられるものを作っているという。一日二回のまかないで、二人はかなり鍛えられることだろう。将来が楽しみになるほどだ。
文:浅妻千映子 写真:青谷慶