料理人やスタッフの元気の源まかない。東京・新井薬師前にあるスパイシー飲み屋「マロロガバワン」のまかないは、カレーパスタ!まかないまでカレーとはさすが。さっそく、まかないの調理場を覗き見してみましょう。
「平日は、近くのお蕎麦屋さんとか、商店街のお店で食べることも多いですね。気分転換にもなるし、近所の方とも仲がいいので。“カレーパスタ”は、休みの月曜に店に仕込みに来た時、作ることが多いよね」
「うん」
そう話してくれたのは、店主の礒邊和敬さんと奥様の麻由さん。
店のメニューには、16年間「インド食堂アンジュナ」や「エリックサウス」というインド料理の名店でやってきたご主人のつくるスパイス料理やタンドール料理のほか、フレンチやイタリアンレストランで調理経験のある麻由さんのつくるパテなどが、少々インド風にアレンジされて載っている。夜の営業はご主人一人でやっているが、仕込みはいつも二人でやる。だから、まかないはいつも二人で食べている。
さて、カレーパスタとはその名の通り。店で出しているカレーをパスタにアレンジしたものである。
「アレンジといっても、本当にカレーはそのままです。茹でた麺に絡めるだけ。面白いことに、店には何種類かカレーがあるのに、“これパスタにしたらおいしそう”と思うのは、なぜかいつも魚のカレーなんです」。
この日も、「ミーンモーレ」という秋鮭を使ったココナッツミルクベースのカレーがパスタとなった。「ミーン」は魚、「モーレ」は白いものを意味するという。玉ねぎや生姜、青唐辛子など入っているが、それほど辛みはなくココナッツミルクでマイルドな仕上がり。鮭も入れて煮込んだ最後に、生トマトを入れ、レモン汁で酸味を纏わせるのもポイントだ。フレッシュ感が出て、一気に味にメリハリが出る。
フライパンでこのカレーを温めている間に、鍋で麺を茹でる。乾麺を取り出すかと思いきや、うどんのような生麺が登場した。
「すぐ近所に製麺屋さんがあるんです。うどんや焼きそば、餃子の皮なんかも売っていて、これは生パスタとして売られています。フェットチーネみたいな平麺ですね。人気の麺屋さんで、まかないの時間に行くと、うっかり売り切れということも。だから、“今日はカレーパスタ”という日は早めに買いに行きます」
茹で上がった麺をフライパンに入れてカレーと和えればできあがり。すだちを添えて絞って食べる。
生麺で食べるカレーは、全くというほど違和感がなく、ココナッツミルクと麺が一体化。モチモチとして美味である。ここでもスダチの酸味はいいアクセントだ。
「旨い! もっとカレーの量があってもよかったかな」
と笑いながら食べるお二人。まかない中は、二人の子供の話や、料理の話、それからワインの話などしているそうだ。麻由さんはソムリエで、特にカジュアルなワインを選ぶのが得意だそう。
「不思議なことに、そういうカジュアルなワインがインド料理によく合うんです。店で出すワインは一杯500円か600円くらい。気軽に、毎日でもワイン一杯だけでも通って欲しいので、そういう意味でも彼女の選ぶワインはぴったりなんです。商店街の中の気軽な一軒として、地元の人に愛され続けたい」
とシェフ。何気なくまかないで使う麺一つにも、そんな気持ちが表れている。
文:浅妻千映子 写真:青谷慶