カメラマンが、いつかまた食べたい料理
淡路牛すじ肉と玉葱の麻炭黒カレー、うどん、鯖へしこ|カメラマンが、いつかまた食べたい料理

淡路牛すじ肉と玉葱の麻炭黒カレー、うどん、鯖へしこ|カメラマンが、いつかまた食べたい料理

カメラマンの佐伯慎亮さん。今、食べに行きたい、会いに行きたい料理はなんですか?と聞くと……。

佐伯慎亮さんが食べに行きたいのは――。

兵庫・淡路「食のわ」の淡路牛すじ肉と玉葱の麻炭黒カレー

兵庫・淡路「食のわ」の淡路牛すじ肉と玉葱の麻炭黒カレー
淡路島に移住して2年半、住んでいた2件隣だったゲストハウス花野に併設する「食のわ」は、島内だけではなく近県からもリピーターが来るほどの美味しさ。だいたい3~4種類のカレーを用意しているが、“黒カレー”は、淡路に住んでからどれくらい食べただろうか。これを食べるまでは自分は辛いカレーが好きだと思い込んでいたけれど、甘く深い味わいは何度食べても食べ飽きない。この店を一人で切り盛りしている神瀬 聖(しんせさとる)くんは、ケータリングでイベントや国内の音楽フェス、遠くはベトナムまでも頼まれて出張するフットワークの軽い人気者の料理人だ。トリプルまで合いがけできるのも魅力で、豚とひじきとセロリのキーマカレーとか、~のベジカレー、サワラの~カレーなどなど、その時々によって神瀬くんの気まぐれも味わえる。3月末の淡路から大阪への引っ越し、その最後の日に食べたのもこのカレーだった。引っ越しを手伝ってくれる友人たちへのまかないをかって出てくれたのだ。荷物を2トントラックに積んだ後、その隣で太陽の下皆んなで食べたカレー、最高だった。引っ越し祝いに電気グルーヴのアルバム、「20」と「25」をプレゼントしてくれたのもめちゃくちゃ嬉しかった…!(彼はDJもたまにやってる)大阪に移り住んで2週間、コロナの影響でぼくも奥さんもアッという間に仕事が全て無くなり、子供らも学校が休みという事で急遽、淡路島に別の古民家を紹介してもらい、今はまた淡路で3回目の春を満喫しているけれど(草生えまくりで毎日草刈り!)、食のわもゲストハウス花野も閉まっている春は初めてで、やはりさみしい……。早くまた、食のわで黒カレー多めのトリプル合いがけを食べたい!

京都・上京区「上七軒 ふた葉」の餡かけうどん(けいらん、たぬき)

京都・上京区「上七軒 ふた葉」の餡かけうどん(けいらん、たぬき)
京都・上京区「上七軒 ふた葉」の餡かけうどん(けいらん、たぬき)
京都・上京区「上七軒 ふた葉」の餡かけうどん(けいらん、たぬき)
京都・上京区「上七軒 ふた葉」の餡かけうどん(けいらん、たぬき)
ぼくは2つのグルメ系連載を抱えている。一つは茶道の雑誌『なごみ』の「東西おいしい往復書簡」という連載で、東は平松洋子さんが東京のお店を書きキッチンミノルさんが撮影、翌月に姜尚美さんと僕が西の京都のオススメを取材し、リレー形式で紹介し合うというちょっと変わった隔月の連載で、始まって1年半。もう一つは関西のグルメカルチャー雑誌『Meets』の「予約一名、角野卓造でございます。」という、その名の通り角野さんのオススメのお店に行って飲んで食べる様子を、もう足掛け7年、2013年から撮らせてもらっている。この両方の連載で取材させてもらった唯一のお店がここ、「上七軒 ふた葉」だ。 『なごみ』で“けいらん”を取材したのは2018年の秋だった。西の初回に姜さんが選んだ京都の老舗だ。広島出身のぼくはけいらんうどんの存在を知らなかったけど、まず見た目の美しさに驚いた。熱々の餡に卵がキレイ。上に乗ってる生姜を軽く混ぜ食べてみると……熱っ美~味い!コシが弱目の京風うどん、卵の柔らかさに生姜が効いててホクホクのたまらん美味さだった……。店主さんは控えめな方だった。ご家族での経営だったと思う。テーブルに季節の花が添えられているのと夕暮れ時の通りの景色も印象的だった。 その1年後、角野さんの取材で再訪。店主さんは僕のことは覚えてないようだったけど相変わらず控えめで厳かな感じ。角野さんは“たぬき”だった。こちらもやはり餡に生姜!!東京には餡かけうどんっていうのはまず無いですよ、と角野さん。厚めに刻んだお揚げを熱そうに汗を拭きながら食べてる姿を写真に撮らせてもらい、メインカットには暖簾前のご機嫌な姿を使用した。角野さんは姜さんの「京都の中華」を熟読されているが、中華以外でもお二人が選んだお店がつながるのかと、裏方仕事冥利に尽きるなとラッキーな気持ちになり、勝手に感慨深く思った。体が温まる餡かけ生姜うどんは風邪の時の定番らしい。コロナなんかもこのうどん食べたら吹き飛んでくれるんじゃないだろーかーー!?

京都・伊根町「向井酒造」の鯖へしこ

京都・伊根町「向井酒造」の鯖へしこ
京都・伊根町「向井酒造」の鯖へしこ
dancyuの日本酒特集取材で行った京都・伊根町の「向井酒造」で“京の春”の肴としてご馳走になった鯖のへしこ。細く切ったへしこをバーナーで炙ってもらうと、身から脂がみじみ出てきてこれがお酒と抜群の相性に!味噌の芳ばしさもたまらない。サワラの刺身の炙りも初めてで感激の美味さだった。古代米の伊根満開も食後に最高!伊根町は日本海でありながら南向きに湾が広がる独特の地形で、日本海の荒波の影響を受けない湾内には舟屋が並び、「向井酒造」はその景色の一角にある。海の幸、山の水、米作り、そして酒。“豊か”という言葉が自然と出てくる。朝の仕込みの撮影が終わった頃、杜氏の向井久仁子さんの息子たちが保育園に行く前に「行ってきま~す」と挨拶しにきてた。ぼくが、久仁子さんの知り合いに同一人物かというほど似ているらしく「本当にとっちゃんじゃないの?」と何度も聞かれ、逆にとっちゃんに会ってみたくなる程だった。取材終わりで鯖へしこを買って帰り、それをきっかけにバーナーを手に入れた。今住んでいる淡路島では酒と一緒にいろんな魚を炙っているが、あの鯖へしこのことをよく思いだす。もちろん取り寄せても食べたけれど、あの舟屋の景色と炙りへしことの最初の出会いは、久仁子さんのゲラゲラとした笑い声と共に、また必ずいきたい場所としてぼくの中に刻まれているのだ。

写真・文:佐伯慎亮