ボルドーワインがサステナビリティに挑戦する理由。
ボルドーワインの新境地は近い。

ボルドーワインの新境地は近い。

地球温暖化で私たちの生活はどれだけ変わったのだろう?日本から遠く離れたフランスのボルドーでは、その変化がワイン造りに影響を及ぼしているそうです。2000年続いてきた文化を途絶えさせないために、ボルドーは7種類のぶどうに未来を託します。

収穫期が30年前より3週間早くなっている。

ボルドーが地域をあげて持続可能なワイン造りに向かうもうひとつの理由に、もはや看過できなくなった地球の温暖化がある。
「ボルドーでは、収穫期が30年前より3週間早くなっています。温暖化でぶどうが熟しやすく、糖度やアルコール度数が高くなるのと反対に、酸は減る傾向にあるのです。ワインのアロマも果実そのものから、煮詰めたジャムのような香りに変化し始めています。さらに今後30年間で、気温は3.6度上昇すると予想されているのです」
ボルドーワイン委員会の技術部門ディレクターであるマリー・カトリーヌ・デュフールさんはこう話す。

マリー・カトリーヌ・デュフールさん
ボルドーワイン委員会・技術部門ディレクターのマリー・カトリーヌ・デュフールさん。ボルドーの新しい試みについて熱意あるスピーチ。

ワインは自然の産物である。ボルドーワインの味わいは、はっきりとした変化の途上にあるというわけだ。
その解決策として、ボルドーは新たなぶどう品種の栽培を試みようとしている。AOCボルドーとボルドー・シュペリウールのワイン生産者は2019年6月、温暖化に適応する、新たなぶどう品種7種を全員一致で承認。現在は、ワイン法であるAOCを定める機関INAOに申請し、その最終認定を待っている状態だ。

ブドウ畑
地球温暖化が進んだ現代では、ワインの味を形成するテロワールが変わりつつある。20年前と同じ方法では、同じ味のワインには仕上がらない。

模索が続くボルドーの新境地。

その7品種とは赤がアリナルノア、カステ、マルセラン、トウリガ・ナショナル。そして白がアルバリーニョ、リリオリラ、プティ・マンサンだ。
全体の傾向として、赤はこれまでの品種より収穫期が遅いものを、白は暑さに耐えつつ美しい酸を残すものが選ばれた。アルバリーニョやトウリガ・ナショナルはボルドーより暑いスペインやポルトガル原産の品種であり、プティ・マンサンは南フランスで補助的に使われている。それ以外は、現在ではほとんど見られない希少品種ばかりだ。
たとえば、カステはボルドーのジロンド県で1870年に発見されたけれど、何十年もの間、忘れ去られていた。

醸造樽
ワイン造りの文化は一説では、紀元前8000年ごろからと言われている。これまでに何百種類という品種のぶどうが試された。

いずれも、すでに公式にフランスで認定されているぶどう品種だが、その選定にはいくつかの基準があった。
フランスのほかのワイン産地で代表的な品種ではなく、ボルドーならではのアイデンティティを表現できるもの。たとえばブルゴーニュのシャルドネやピノ・ノワール、ローヌのシラーなどは外された。
新しいぶどう品種はあくまで補助品種であり、作付面積は5%以内と定められている。そしてワインにアッサンブラージュする場合の総使用量も10%までであり、ラベルへの記載も特に必要ない。

ワイン造りの様子
いままでのボルドーワインでは、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロー、ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨンといったぶどうが使われていた。

今後、2020年から2021年にかけて植樹される予定だから、実際にワインに使われるのは3年以上先になる。
ボルドーでは、INRA(国立農業研究所)の研究区画でぶどう52品種を栽培したりと、どのようなものがこの地に向くのか模索が続く。ボルドーの新境地を拓くための未来への挑戦である。

ーーつづく。

文:鳥海美奈子 写真:Mathieu Anglada

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鳥海美奈子(ライター)

ノンフィクション作品の共著にガン終末期を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)がある。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、文化や風土、生産者の人物像とからめたワイン記事を執筆。著書に『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)。雑誌『サライ』(小学館)のWEBにて「日本ワイン生産者の肖像」を連載中。陽より陰のワインを好みがち。