ボルドーワインがサステナビリティに挑戦する理由。
ボルドーの矜恃と威厳が表現されたワイン博物館が完成した。

ボルドーの矜恃と威厳が表現されたワイン博物館が完成した。

ワイナリーは、いまやワインを造るためだけの場ではない。観光客を迎え入れ、地元の食材や文化を愉しむツーリズムの場としても注目を集めている。さあ、ボルドーのワイン紀行へ旅立とう!

まさにワインの一大テーマパークだ!

ボルドーはいま、ワインツーリズムにも力を入れている。その白眉ともいえる建築物が、2016年に完成した「シテ・デュ・ヴァン」だろう。
ボルドーの象徴であり、悠々と水を湛えつつ流れるガロンヌ川。市内中心部から小さな水上バスに乗り、古典様式の重厚な街並みを眺めながらガロンヌ川クルージングを楽しむこと15分ほど。

ガロンヌ川のクルージング
ガロンヌ川のクルージング。河からボルドーの華麗な街並みを楽しむことができる。

木材とガラス、穿孔アルミを組み合わせた、巨大な近代建築物が左手に現れる。
流れるようなその曲線美は、ワインの味を開かせるために使うデキャンタの形を模していると聞く。
シテ・デュ・ヴァンはボルドーワイン委員会、生産者や学者、企業などが知識と資金を集結してつくり上げた、ワイン博物館である。
「ここはボルドーワインに限った情報発信の場ではありません。世界の人にワインが文化的財産であり、魅力的なものであると発信する施設になるよう目指しました」と、マーケティング担当の女性は誇らしげに語った。

巨大な近代建築物
ガロンヌ川から望む、「シテ・デュ・ヴァン」の美しい現代建築。
館内
最上階では、世界のワインから選ばれた20種を試飲できる。博物館入場料20€に1杯のテイスティング料が含まれる。

その博物館は、まさに圧巻のひと言に尽きる。世界のぶどう畑一周の旅を、壁一面に広がる巨大スクリーンで体感できる部屋。ワインと食のマリアージュを映像で紐解くデジタルテーブル。果実や花、皮製品や古本といったワインのアロマを実際に経験するブース。そしてタッチパネル式タブレットでぶどう農家の仕事を学ぶコーナー。
3Dやデジタルを最大限に活用した、五感を震わせて楽しむアトラクションの数々は、ワインの一大テーマパークといった趣。1日ここで過ごしても、まったくもって飽きることがない。

体験ブース
3Dやデジタルを駆使した、「ワインアトラクション」とでも表現したくなる体験ブースの数々。

上階にはボルドー市街のパノラマを一望できるガラス張りのレストランやテイスティングルームがある。ボルドーワインに携わる人々の矜持と威信が、ここにも表現されていると言っていいだろう。

体験コーナー
ワインの表現によく使われるアロマを実際に嗅ぐことのできるコーナー。

ワイナリーで愉悦の時間に心身を浸す。

オフィシャルの施設のみならず、ボルドーでは各シャトーもまたワインツーリズムに力を入れている。
甘口最高峰として名高いソーテルヌ。その中で、数少ないビオを実践する格付け1級のシャトー・ギローもそのひとつ。

ワインと料理
「シャトー・ギロー」は、ボルドーの南にあるソーテルヌ地区を代表するワイナリー。

熟した果実のみを収穫、SO2(亜硫酸塩)の使用は必要最小限、補糖もしないなど、限りなく自然に近い造りを実践することで、最高峰のソーテルヌを生み出す。そのワインは蜂蜜やアンズの香り豊かで、甘口ながら酸もあり、余韻もとても美しい。
そのシャトー・ギローが開業したレストランでは、料理とともにさまざまな銘柄をグラスで注文できる。ソーテルヌといえば甘口の印象が強いけれど、この日飲んだのは辛口の白だった。ソーテルヌの中にも残糖度によってさまざまな種類があり、その飲み比べがなんとも愉しい。ふと窓の外を見れば、シャトー・ギローの畑が遥か向こうまで続くさまを眺めることができる。

レストラン
シャトー・ギローのレストラン。グラス1杯からワインを注文できるのでさまざまなマリアージュを楽しめる。

同じソーテルヌでは、やはり格付け1級のシャトー・ラフォリ・ペラゲもワイン愛好家の受け入れに積極的だ。1888年に創業したクリスタルガラスの「ラリック」がオーナーなだけに、豪奢な17世紀の建築物にはクリスタルガラスがいたるところに配されている。

シャトー内
フランスの高級クリスタルガラスメーカーのラリックが現在所有するシャトー・ラフォリ・ペラゲ。豪奢なレセプション横のスペース。

その五つ星ホテルに泊まり、併設された一つ星レストランで舌鼓を打ち、ワイナリーを見学する。ボルドーの自然に抱かれつつ、そんな愉悦の時間にゆったりと心身を浸すことができる。

ホテルの部屋
5つ星ホテルの部屋。ここに泊まり、ワイナリー訪問もできる。地産地消を謳うレストランの料理はモダンなフレンチ。

――つづく。

文:鳥海美奈子 写真:Mathieu Anglada

鳥海美奈子

鳥海美奈子 (ライター)

ノンフィクション作品の共著にガン終末期を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)がある。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、文化や風土、生産者の人物像とからめたワイン記事を執筆。著書に『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)。雑誌『サライ』(小学館)のWEBにて「日本ワイン生産者の肖像」を連載中。陽より陰のワインを好みがち。