ドイツワインの轍。
横浜の「Am Rhein」は日本とドイツの架け橋だ。

横浜の「Am Rhein」は日本とドイツの架け橋だ。

港町・横浜で女性ひとり、ドイツワインの魅力を発信し続ける店がある。店主の我妻薫さんはキャビンアテンダントの職を辞め、飲食業界へと飛び込んだ。今日も真摯にドイツワインと向き合っている。

ドイツワインに魅了されて……。

それはいまから、150年以上前のこと。ドイツの前身であるプロイセンと、日本が通商条約を結んだのは明治初期だった。それからというもの港町・横浜は日独交流に中心的な役割を果たしてきた。
その現代の横浜に、ドイツワインレストランを立ち上げた女性がいる。「Am Rhein(アム・ライン)」の我妻薫さんだ。

入口
「Am」とはドイツ語で「川沿い」という意味。飲食店が建ち並ぶ関内エリアに店はある。

「ドイツワインの長所は、その多様性です。地域によって土壌が違うのでワインのキャラクターもまったく変わりますし、辛口から甘口まである。ぶどう品種も、伝統的に栽培されてきたものから国際品種までバラエティに富んでいます」

「もともと人見知りなのですが、接客ができるようになったのはキャビンアテンダントの経験があったから」と語る我妻薫さん。グラスワインは定番が8種、日替わりが8種。

場所柄、ドイツに所縁のある客も多いという。けれど我妻さんは、より広い人に「ドイツワインの魅力を伝える、その発信地となりたい」と瞳を輝かせる。
店を立ち上げる前、我妻さんは飛行機のキャビンアテンダントとして15年勤務した。その間に結婚し、ご主人の仕事の関係で横浜に住むようになった。ご主人の英語の先生がドイツ人であり、やがてその奥様にドイツの家庭料理を学ぶようになった。

「はまポークの自家製ソーセージ」820円。地元・横浜のはまポークを使った手づくりソーセージ。肩ロース、もも、バラ肉をざく切りにしたあとセージやにんにくを混ぜて腸詰に。
「本日のツヴィーベルクーヘン」600円~。サワークリームが入ったドイツ風玉葱のキッシュ。日替わりで季節の野菜が入る。この日はカボチャ。

ドイツは、いつ訪れても変わらぬ姿で迎え入れてくれた。

「ホームパーティーにもよく招待していただきました。そのご夫妻に薦められて、休暇には主人とふたりでドイツのワイナリーを訪ねて回るようになったんです。レンタカーやレンタサイクルでぶどう畑のなかを走ったり、ワイナリーで試飲をしたり」
歴史ある建築物や街並みを幾世紀にもわたり継承するドイツは、いつ訪れても変わらぬ姿で迎え入れてくれた。現地で美味しいワインの虜となり、同じような味のワインを、と日本で探したが、なかなか見つからない。ドイツワインの魅力を伝えたい、ドイツワインに関わる仕事をしたいとの思いが、やがて募っていった。

ワインボトル
お薦めのラインヘッセンのワイン。左から「シュロス・ヴェスターハウス シュペートブルグンダー」5,100円。「キューリング・ジロー ニアシュタイン・リースリング・トロッケン」6,300円。「ワインケラライドイチェ シュペートブルグンダー アイスワイン ブラン・ド・ノワール」6,000円。すべてグラスで飲むことも可能。
左はドイツワイン好きにはなじみ深い、ステム部分が緑色のレーマーグラス。「Römer(レーマー)」とはドイツ語で「ローマの」という意味。ローマからワイン文化がもたらされた名残が感じられる。

2010年、勤めていた航空会社を早期退職。ドイツのラインヘッセン地方のワイナリーで1ヶ月研修し、ワイン造りの現場も知った。帰国後はドイツワインの輸入会社に勤務して、直営店の店長に。それから東京・新宿のドイツレストラン「リースリング」で修業し、のれん分けという形で「Am Rhein」をオープンした。2016年のことである。

ドイツワイン
グラスワインは700円~。「多くの種類を飲んで、ドイツワインを楽しんでほしい」と我妻さんは話す。若手で現代的な造りをしている生産者のワインも揃う。

「ドイツは世界のワイン産地のなかでも北限に近いところです。ぶどうは寒暖差のある気候のなかゆっくり熟すので、美しい酸とエレガントな果実味をあわせ持っています。ワインを知らない人でも、飲むとみな美味しいと言ってくれますね」
ワインのサービスから料理まで、ひとりですべて手掛ける。ドイツワインの魔力に人生をからめ取られた人が、ここにもまたひとりいた。

店舗情報店舗情報

Am Rhein
  • 【住所】横浜市中区相生町2‐50 柏木ビル2F
  • 【電話番号】045‐306‐9497
  • 【営業時間】17:30~23:30(L.O.)、土祝日は~23:00(L.O.)
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】JR「関内駅」より3分

文:鳥海美奈子 写真:浜村多恵

鳥海美奈子

鳥海美奈子 (ライター)

ノンフィクション作品の共著にガン終末期を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)がある。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、文化や風土、生産者の人物像とからめたワイン記事を執筆。著書に『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)。雑誌『サライ』(小学館)のWEBにて「日本ワイン生産者の肖像」を連載中。陽より陰のワインを好みがち。