オレンジ色のじんわり系「ジョージアワイン」ってなんだ?
造り手が語る「A Way of Life」。

造り手が語る「A Way of Life」。

2019年10月、インポーター「ノンナアンドシディ」との厚い友情により、ジョージアワインの生産者が来日した。「PHEASANT’S TEARS(フェザンツ・ティアーズ)」「OKRO’S WINE(オクロズワイン)」「Lagazi(ラガジ)」の造り手だ。レクチャーと試飲会を終えた彼に話を聞いた。

「ジョージアワインほど日本料理に合うワインはない」

右から、若干29歳の「LAGAZI(ラガジ)」のショータ・ラガジさん。ジョージアワインを世界に広めた第一人者の「PHEASANT’S TEARS(フェザンツ・ティアーズ)」のジョン・ワーデマンさん。イギリス物理学博士号も持つ「OKRO’S WINE(オクロズワイン)」のジョン・オクロさん。

――最近、日本でもジョージアワイン、ことにオレンジワインのファンが増えています。

ジョンさん
ジョージアのオレンジワインほど日本料理に合うワインはないと思います。ヨーロッパの赤ワインや白ワインの中にも日本料理と合うものがあります。でも、ジョージアワインは味の幅が広く、刺身、だし、わさび、味噌……と、いろいろな料理と合わせることができます。日本の伝統料理は味の幅が広く、そこに合わせるとしたら、ジョージアのオレンジワインしかないのではないでしょうか?
ジョンさんの造る銘柄「フェザンツ・ティアーズ」は、透明感があり繊細な印象。
「フェザンツ・ティアーズ」

――なぜ合うのでしょうか?

ジョンさん
その説明の前に、ジョージア料理の話をさせてください。食材が豊かなジョージアのレストランでは、いろいろな料理がテーブルに並べられます。甕で醸したジョージアワインはそのすべてに合わせられます。それがまたジョージアワインのユニークなところです。なかでもオレンジワインは、赤ワインと白ワインの特性を兼ね備えています。だからどのワインに向いている料理とも合わせられます。メキシコ料理、韓国料理、ベトナム料理にも合うでしょう。いうなれば、オレンジワインは優秀なオペラ歌手なのかもしれません。


――優秀なオペラ歌手?

ジョンさん
そうです。ソプラノもバスも歌える優秀なオペラ歌手です。舞台が変わっても、ひとりで大勢の観客を魅了させることができます。私は日本料理には詳しくありませんが、日本料理店ではコントラストのある、様々な料理がテーブルに並べられます。ジョージア料理同様、味の幅が広い日本料理には、オレンジワインが合うと思います。日本料理に1本のワインを合わせるのなら、オレンジワインしかないと思います。
オクロさん
今回、初めて日本に来ましたが、オレンジワインは天ぷらや鮨にも合うと感じました。
ショータさん
僕は麻婆豆腐とも合うと思うなぁ。
ジョンさん
私は「ある特定のワインがどの料理と合う」という考え方はしません。1本のワインには、いろいろな面があります。ひとつの料理がそのワインのある面を、別の料理がそのワインの別の面を引き立たせてくれると私は考えます。それがワインの愉しみ方だと思っています。
ジョージア東部のクリーンな畑で収穫された最良のぶどうで、高品質なジョージアワインを造るオクロさん。
「オクロズワイン」
前田さん
ジョージア人は本当に宴会が大好きなんです。宴会では、皿の上に皿を重ねるぐらいいろいろな料理を出して人をもてなします。宴会の間、何度も乾杯します。乾杯はジョージアでは「ガウマルジョス」といいます。「ボロムデ」という言い方もよく宴会で使います。これは「最後まで飲み干せ」という意味で、もともとの「乾杯」と同じ意味ですね。

ワインは人生そのものである。

ジョージア研究の大人者で“ミスター・ジョージア”こと前田弘毅さんによれば、ワイン発祥の地、ジョージアにはワインにまつわる言い伝えや言葉がたくさんあるという。

前田さん
ジョージアでは、ワインを醸したあとに残った果皮で蒸留酒が造られてきました。イタリアでは「グラッパ」ですが、ジョージアでは「チャチャ」。ただし、「チャチャ」の意味は広く、蒸留酒だけではなく、もともとのブドウを醸すための果皮すべてを「チャチャ」と呼びます。そしてこの「チャチャ」を、ジョージアでは「ワインの母」と言います。母はジョージア語で「デダ」。ワインとは関係ないのですが、ジョージアではびっくりしたとき、老若男女関係なく「ウイ・デダ」、つまり「わあ、お母さん」って言うんです。「チャチャ」を母親に喩えるのは、母親を大切にするジョージアらしい言い方だと思います。
首都大学東京(東京都立大学)人文社会学部教授・プリンストン大学客員研究員の前田弘毅さんとともに。
ジョンさん
ジョージアでは、「ワインは太陽の子ども」と言われています。「グラスの中の太陽」と表現されることもあります。熟してきたぶどうを「太陽の瞳が宿った」とも言います。
前田さん
その昔、大地は母、天空は男性だと考えられていました。大地に実るぶどうは、天空の太陽を浴びて育ちます。そのぶどうを大地に埋めたクヴェヴリに入れてワインを造ることから、「ワインは天空と大地の子ども」だと考えられてきました。
ジョンさん
一般的にフランスやイタリア、日本ではワインは高尚なものだと思われています。でも、ジョージア人にとってワインは人生そのもの。ワインがないと何も始まりません。生活の中心にワインがあります。

――最後に、この記事を読んでいる方々にメッセージをいただけますか?

オクロさん
我々ジョージア人も日本人も伝統を守ることに美意識を持っています。初めての来日で、そのことを確認できたことを大変喜ばしく思っています。マドルバ(ありがとう)
ジョンさん
ジョージアは神から授かったテロワールです。その大地で育ったぶどうで造ったオレンジワインを愉しみながら飲んでいただけることに感謝します。マドルバ。
ショータさん
初めて日本に来て興奮しています。日本の方が自分のワインを愉しそうに、おいしそうに飲んでくれる姿を見ることができました。ワインを造る上で、大きな励みになります。今度は皆さんがジョージアに来てください。歓迎します。
現地のワインバーで、甕仕込みのワインを飲んでワイン造りに目覚めたショータさん。次世代を担う造り手のひとり。
「ラガジ」

ショータさんが言うように、次回はジョージアで再会したい。
ジョージアの空の下、ジョージア料理を賞味しつつ、彼らのワインを飲んでみたい。
よし、ジョージアへ行くために、ジョージア貯金を始めるぞ。

13時から始まったレクチャーが終わる頃にはすっかり夕空に。約7,700kmも遠く離れたジョージアともこの空はつながっているし、彼らのワインを飲めばいつだって造り手のハートを感じることができる。

――つづく。

文:中島茂信 写真:オカダタカオ

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中島 茂信(ライター)

1960年、東京都葛飾区生まれ。4歳の頃、亀戸天神の近くにあった「田久保精肉店」のコロッケと出会って以来コロッケ好き。趣味はラードで揚げたコロッケの買い食い。最後の晩餐はもちろんコロッケ。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』(枻出版社)、『101本の万年筆』(阪急コミュニケーションズ)、直木賞作家の山口瞳さんの妻である治子さんの聞き書き『瞳さんと』(小学館)、『自家菜園レストラン』(コモンズ)など。企画・編集に『笠原将弘のおやつまみ』(ぶんか社)、『平翠軒のごちそう宝箱』(小学館)がある。