「サエキ飯店」の香辛料をきかせた広東料理とジョージアワイン。割烹居酒屋「酒井商会」の和食とジョージアワイン。まさかの組み合わせのはずが、料理がさらにおいしく感じられて、驚くやら感心するやら。食事中目尻が下がりっぱなしだった。では、フレンチとの相性は?
どうして広東料理と日本料理が、ジョージアワインとマッチするのか。
その理由のひとつを2019年10月末、来日した「PHEASANT’S TEARS(フェザンツティアーズ)」のジョン・ワーデマンさんがこう説明してくれた。
「ジョージアワインは味の幅が広く、いろいろな食材を使う日本料理と合うのだと思います。中でもオレンジワインは赤ワインと白ワインの特性を兼ね備えているため、味の幅が広い日本料理だけでなく、韓国料理、ベトナム料理とも合わせやすいのではないでしょうか」
では、ヨーロッパの料理との相性はどうなのか。
たとえばフレンチ。
実は、ジョージアワインのインポーター「ノンナアンドシディ」のオーナー、岡崎玲子さんから「『kiki』のフランス料理とジョージアワインのペアリングが素晴らしい」という話を何度も聞かされていた。
白状すると、フレンチへ行く機会はほとんどない。いろいろな意味で敷居が高すぎて、なかなか足が向かないのだ。
けれど、岡崎さんの薦めもあり、ジョージアワインとフランス料理のペアリングを試してみたかったことから、東京・原宿にあるビストロ「kiki harajuku」へ出かけることにした。
店は明治通りの1本裏手の、静かな一画にあった。敷居が高いどころか、ガラス張りの店内は若い女性たちの声でいっぱいだった。オープンキッチンから立ちのぼる、温かくて、美味しそうな香りが店内を満たしていた。
「ワインは主にナチュラルワインを扱っています。中でもジョージアワインは10種類提供させていただいております」とワイン担当の原田佳奈さんは説明する。
「ジョージアワインはいまやうちの店にとって欠かせない存在になりました。私も大好きです」と、オーナーシェフの野田雄紀さんも言葉を添える。
フレンチとジョージアワインとのペアリングを愉しませてもらうことにした。
期待に胸をふくらませつつ、料理とワインが届くのを待った。
スターターはフリットだった。一瞬ジャガイモかと思ったが、野菜ではなかった。
「イチジクのフリットです。この料理には、『OKRO’S WINE(オクロズワイン)』のスパークリングワイン『ツォリコウリ』を選びました。クヴェヴリという甕(かめ)で醸した、微発泡ワインです」と原田さん。
熟したイチジクを、やや厚い衣がおおっていた。
「衣はとうもろこしの粉のコーンフラワーでつくりました。ガリガリッとした食感を思い切り強調してみました」と野田さんは説明する。
イチジクの脇に、和辛子のようなものが添えてあった。
「カシューナッツのペーストです。イチジクと相性がいい黒胡麻をちらしました」と野田さんは教えてくれた。
イチジクの酸味と、それに同調するような「オクロズワイン」のスパークリングワインがよくマッチ。ペーストはなめらかで甘味があり、イチジクのフリットに付けて味わうと、ワインもより美味しく感じられた。
ジョージアワインを酸味のある料理と合わせたのは初めてだったが、相性の良さに驚かされた。
2品目は「茄子と中とろとピオーネのルーロー」。合わせたワインは「NIKA(ニカ) タリエルナ」。
中とろを軽くソテー。その中とろを、素揚げにして赤ワインビネガーで味付けをしたナスで巻いた料理だった。ナスの上に、静岡産のピオーネを載せ、バルサミコを添えてあった。
甘酸っぱいナス。ピオーネのジューシーな果実味。煮詰めたバルサミコの凝縮された旨味。ぶどう由来の奥深い味わいのオレンジワイン。
多彩な酸味が口の中で混然となり、さらなる美味しさを創り上げていた。
――つづく。
1983年静岡県島田市生まれ。静岡の調理師学校卒業後、県内のレストランに勤務後、渡仏。当時、一つ星を獲得していたパリ「グマール」で3年修業。パリ7区にあるビストロ「プティトロケ」に務めた後、パリの当時三つ星「タイユヴァン」で2年研鑽を積む。帰国後、神楽坂の「ルグドゥノム・ブション・リヨネ」でスーシェフを任される。2011年に独立し、「kiki harajuku」を開業。kikiは「タイユヴァン」のシェフに呼ばれていたニックネーム。
東京生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後、入店。2018年秋、キッチンからサービスに異動となる。現在、ワインとコーヒーの担当。
文:中島茂信 写真:オカダタカオ