東京には和食に絞っても数えきれないほどのお店があります。その中でもぜひ訪ねてほしい和食店を6軒ご紹介します。2019年も残りわずかとなりましたが、ぜひとも年内に訪れて、今年をより美味しい記憶の多かった年にしましょう!1軒目は心温まる野菜割烹のお店です。
割烹の誠実とはなんだろう?都内の割烹で高級食材を食べながら、疑問がわく。そのときに思ったのが、「有いち」の野菜料理だった。
ここに“うすい豆の浸し”がある。しわ一つない豆を口に運べば、豆とだしの境界線がない。だしの旨味と豆の甘味が一つとなり、心を温める。
日本料理の達人でさえ、「最も難しい」と語る料理である。
または、各野菜の火の通しと味のしみ込ませ方がピタリと着地した、炊き合わせもいい。
さらには「外食する非日常を味わってほしい」と、八寸の盛り込みに心を注ぐ。白瓜の薄さが赤貝を生かす、ぬた。新じゃがいもの甘味とうどの香りに顔が崩れる料理。バイ貝の味が生きた山椒煮。海老みその地に漬け込んだ、香り高いゆで海老。小粋な脂が甘い、小鯵鮨。どの料理にも、華やかさがありながら、すっきりと整っている。心が弾み、食材への感謝が込み上げる料理でもある。
割烹の要であるお椀は、最初は淡く、最後の一滴に向かって旨味が膨らんでいく美しさがある。
そして最後は、季節の炊き込みご飯と、細打ちの自家製せいろそばという楽しみが待つ。
季節を切り取った味に、誠実と華やぎを込める。そんな日本料理の良心が、ここにはある。
文:マッキー牧元 写真:海老原俊之
*この記事の内容は2017年9月号に掲載したものです。