佐渡の新しきコミュニティ発信基地となりつつある、植物と洋酒の店「Silt(シルト)」。移住者である店主は、どのようにしてこの場所に開店したのか?そしてこれからの展望は?
「Silt」の店主、椎名智代(ともよ)さんは小柄でキュートな女性である。が、その行動力とたくましさが察せられるのは、自分の店を開くための理想の場所を探すべく、リュックひとつで各地を回っていたことだ。
「カプセルホテルやゲストハウスに泊まりながら、あちこちを見て回っていました。金沢もいいなと感じましたが、佐渡に着いたら、圧倒的な自然の力強さや土地の人のやさしさに惹かれてしまって。ここにしよう、って決意しました。佐渡島独特の植生の豊かさも、私にとってはとても魅力的なんです」
佐渡に滞在し始めたとき、椎名さんが、現在「Silt」でともに商売をするパートナーのために、開店祝いの寄せ植えを送ったことがある。
これがとある人物の目に留まり、運命的なくらいに物事が一気に動き出す。
「『しまふうみ』という海を一望する人気のカフェがあるんです。そのオーナーの奥様の目に留まって、『これ、誰がつくったの!?』って。そこから仕事が降ってきました(笑)。寄せ植えの注文をいただいたり、お店やご自宅のガーデニングを任せていただいたり。佐渡島にイギリス仕込みの寄せ植えの世界観をわかる人がいたことにもびっくりしました」
あれよあれよという間に仕事が舞い込み、縁がつながり、2019年の1月にこの一軒家を譲り受けることになった。
はじめは植物の店とスタートするも、「自分のキャリアがわかる店にしよう」と酒販免許を取得。ナチュラルワインを中心に、自身が好きなクラフトジンや熟成感のあるラム、ウイスキー、プレミアムテキーラなどを扱っている。
「このお店、意外と子どものファンも多いんですよ。図鑑でしか見たことのない植物があった!って、学校帰りに寄ってくれるんです。とくに子どもたちはサボテンが好きみたい」
植物のファンを増やしていく一方で、4月には食品衛生責任者資格を取得。椎名さんが島に移り住んでつながっていった人たちが、「Silt」で間借り営業をできるようにした。
たとえば、毎週水曜日と土曜日は、本場スペインの味を伝えるチョリソーのたまごサンド専門店が出店。月1度の日曜日にはニューヨーク出身のマーカスさんと智子さんが焼く天然酵母のパン屋が本店からスピンオフ。「一度、お店をやってみたかった」という地元のお母さんがつくる「おふくろの味」を提供する日もある。
「この空間を使って、いろんな人が集まってくれる場になるといいな、って思います。そしてこの植生の豊かな島で自分のモデルガーデンをつくりたいと思っています」
手に技をもった若い移住者たちが創り出す風景は、エネルギッシュでとても興味深い。
ひとつずつは小さなスパークでも、それは新しい佐渡の魅力に確実につながっている。
―――「Silt」 了
文:沼由美子 写真:大森克己