佐渡観光。
「あきつ丸」の"牡蠣、牡蠣、牡蠣"。

「あきつ丸」の"牡蠣、牡蠣、牡蠣"。

加茂湖は佐渡唯一の湖であり、新潟最大。「あきつ丸」はかの湖で真牡蠣を養殖している。冬から春にかけて、獲れたての牡蠣を心ゆくまで食べることができるのだ。

今シーズン分の牡蠣はこの日で全部食べちゃったな。

吾輩は牡蠣である。「あきつ丸」で“牡蠣のコース”を堪能した後は、まさにそんな気分。牡蠣しゃぶ、殻付き蒸し牡蠣、牡蠣フライ、牡蠣の佃煮、牡蠣の味噌汁、牡蠣ごはん(大盛り)を胃の腑に収めれば、あぁもぅ、身も心も牡蠣に包まれる。

牡蠣料理
「あきつ丸」は完全予約制。“牡蠣殻付き牡蠣食べ放題コース”3,850円と“牡蠣のコース”4,400円の2コース。いずれも牡蠣尽くし!
牡蠣料理
“牡蠣のコース”の牡蠣しゃぶ。しゃぶしゃぶ、ぱく、しゃぶしゃぶ、ぱくを繰り返す至福。

そこは加茂湖のほとり。初めて訪れるときは、田んぼと湖に挟まれたそっけない建家に、ちょっとだけ不安になる、かもしれない。特に牡蠣が旬を迎える冬から春にかけての佐渡は、同じ時期のロンドンを彷彿させるどんよりさ。
倉庫のような佇まいの周囲には、びゅうびゅうと寒風が吹く中を漁船が水面でゆらゆら、牡蠣殻の小高い山がこんもり。シュールな夢を見ているような気分になる。

風景
手前に田んぼ、奥に湖。そこに三角形の佇まいの「あきつ丸」。なかなかお目にかかれないロケーション。
風景
船を横づけして、牡蠣を水揚げ。冬から春にかけてが加茂湖の牡蠣の漁期。ほぼ毎日、湖へ。
風景
建屋の横には牡蠣殻の山。果たして、湖の中にはどれほどの牡蠣が漂っているのか。山のてっぺんの水鳥が微笑ましい。

それがね、いざ、がらがらと引き戸を開けて中へ入れば、どうぞどうぞと居間に通され、親戚の家に遊びに来たような感覚を覚える。その風情を懐かしいor斬新と感じるかは各人の来し方によるけれど、夏目漱石の処女作で吾輩が珍野家でくつろぐように、大いになごむ&たゆむこと必至。店というより、家と呼んだ方がしっくりくる。かの吾輩だったら昼寝するよね、きっと。

伊藤剛さん、輝美さん夫婦
三代目の伊藤剛(たけし)さん、輝美さん夫婦に話を訊く。店内です。日本人には、この空間を懐かしいと感じるDNAがあるんじゃないかな。

加茂湖の牡蠣には秘密があった。

「あきつ丸」が加茂湖で真牡蠣の養殖を始めて約80年。いまは三代目の伊藤剛(たけし)さん、輝美さん夫婦が切り盛りする。ちなみに、新潟での真牡蠣の養殖は佐渡だけ。佐渡でも牡蠣の養殖は真野湾と、ここ加茂湖の2ヶ所になる。

殻剥き
水揚げされた牡蠣は横の小部屋でせっせと殻剥きされる。獲れたて、剥きたての牡蠣を味わえる。
牡蠣
見よ、ぷりっとした加茂湖の牡蠣を。旨味たっぷり。そして臭みがない。するすると食べちゃいます。。
牡蠣料理
“牡蠣殻付き牡蠣食べ放題コース”では、この蒸し牡蠣を何個でもどうぞ。“牡蠣のコース”でも味わえます。

うん、湖で牡蠣?と驚くけれど、加茂湖は汽水湖。両津湾からの海水と金北山からの山水を湛えた植物プランクトンが豊富な湖水は、通常は2年から3年かけて大きくなる牡蠣を、1年で立派なサイズに育てるという。なんと、おそるべし加茂湖のポテンシャル。
実を言うと、そこがミソ。加茂湖の牡蠣は、水中にいる時間が短いことから、臭みをほとんど感じない。だから、心ゆくまで牡蠣を食べるにはうってつけ。しかも、1年もの若牡蠣は加茂湖でしか獲ることができない。稀少。

牡蠣料理
“牡蠣のコース”で供される牡蠣フライ。その場で揚げたてが目の前に。揚げ物のおいしい音もご馳走。

兎にも角にも「あきつ丸」で牡蠣が愉しめるのは、12月から年をまたいだそのシーズンの漁期が終わる5月上旬くらいまで。冬から春にかけて水揚げされた牡蠣を殻剥きをして、すべて手塩にかけた牡蠣を供している。

牡蠣料理
ふたつのコースの〆は牡蠣ごはんと牡蠣の味噌汁。この量で大盛りじゃないんです。びっくり。

牡蠣尽くしに満たされ、家庭的な歓待に癒され、「あきつ丸」での時間はこよない太平に入る。ありがたいありがたい。

見送る2人
牡蠣で満たされた後、帰りはふたりが見送ってくれました。心のこもった料理と接客に、本当に親戚の家のよう。

――「あきつ丸」 了

店舗情報店舗情報

あきつ丸
  • 【住所】新潟県佐渡市秋津976‐1
  • 【電話番号】090‐2566‐3420
  • 【営業時間】12月~5月(牡蠣がなくなるまで)の11:20~と12:40~(2部制)、18:00~(昼、夜とも前日17:00までに要予約)
  • 【定休日】12月27日~1月4日、6月~11月
  • 【アクセス】佐渡汽船「両津港」より車で15分

文:エベターク・ヤン 写真:大森克己

エベターク・ヤン

エベターク・ヤン (編集者)

江部拓弥と同一人物であると思われる。『牯嶺街少年殺人事件』のエドワード・ヤン監督と名前が似ているが、まったく関係ない。