京都で飲みたい
もしかしたらそこそこ入れない店になっているかもしれない。

もしかしたらそこそこ入れない店になっているかもしれない。

「お酒と食事 うり」が2018年にオープンしてそろそろ1年。当初は、独り占め気分で、のんびり過ごすこともあったが、最近はどうやらそうもいかなくなってきた。ここも、そろそろ「なかなか」入店できない店になるのだろうか。嬉しいような寂しいような。とはいえプライベート感たっぷりな「うり」の魅力を紹介しよう。

初めての客にも常連客にも、酒呑みのツボをおさえた接客が嬉しい。

1回目では、店主のもんちゃんこと上門邦彦さんとの出会いについて書いた。あれからもう4年くらいになるだろうか。

いつ会っても飄々として優しい笑顔。口数が多いわけではないが不愛想ではない。そんなもんちゃんには、以前の店にいるときからファンが多かった。つかず離れずの心地いい距離感を、天性の勘で知っている人だと思っていた。

ぬか漬け
席についてまず注文する“ぬか漬け”350円。茄子と胡瓜は定番だが、人参だったりセロリだったり。胡麻をふりかけ生姜を添えて。

そもそも“ぬか漬け”というものは、大量に買い込んできた胡瓜や茄子の一部を漬けておく。あるいは大根が残ったから漬けておく。そんなものだと思っていた。

ところがあるとき、茄子や胡瓜だけでなく人参がお皿にのっかっていたことがあった。これが、恐ろしく美味しくて。思わず私は「人参のぬか漬け、おかわり!」と注文した。するともんちゃんは、「この人参、美味しいでしょう。つくっている人の腕がいいんですよ」と言った。

焼物
焼物はすべて炭火で。カウンターに座ると香ばしい匂いが漂ってきて、誘惑される。今日食べるか、次回食べるか。いや次回はないかもしれないから、やっぱり今日!

それからしばらくして訪ねたとき“ぬか漬け”に人参がなかった。「今日は人参ないの?」と聞くと、「あの人参が手に入らないんです。あれでないと美味しくないんで」と言う。どうやら生産者の方がご高齢で、少ししかつくれないらしい。
残り物の野菜を漬けている、なんていう愚かな考えでいた自分を恥じた。“ぬか漬け”にして美味しい野菜を選んで漬けているのだ。

まなかつお塩ポン酢
“まなかつお塩ポン酢”(秋の一品)1,200円。和歌山県産のまなかつおを蒸してから、自家製の塩ポン酢をかけ、鬼おろしを散らしたもの。

「高級魚のまなかつおは、魚自体が美味しいから、手をかけ過ぎない料理が一番だ」ともんちゃんは言う。さっと火をいれるくらいがよくて、味付けも軽めにとどめておくそうだ。搾ったすだちに塩と味醂を加えた自家製ポン酢を少しかけるだけ。ふっくらとした身の旨味がじんわり広がる。ざくっとした歯触りの鬼おろしが効いている。もんちゃんの技量は益々あがっているようだ。

上門邦彦さん
カウンターに座っても、もんちゃんはひとりでせっせと料理をつくっているから、どちらかというと背中を見ていることが多い。バタバタではなくキビキビ。でも、もんちゃんが慌てているところを見たことがない。

「この人はいつも変わらない」と思っていたが、最近ふと「店主の顔になってきた」と思うことがある。初めての客には自分から話しかけ、私のような放っておいてもいい常連にも、ときどき目をやり声をかける。こちらから注文するまで、料理の注文は催促しない。酒呑みのツボをおさえた接客をするようになっている。

最近のもんちゃんは、もう料理長だった頃の彼ではない。そんな目新しいことが嬉しい。

穴子とごぼうの八幡巻き
“穴子とごぼうの八幡巻き”1,300円。下蒸ししたごぼうを長崎産の穴子で巻き、串を打って炭火で焼いていく。味付けは醤油と味醂のタレだけ。葉山椒を盛り、粉山椒を振って出す。香ばしい穴子の旨味をしっかりと感じられる上品な味わいだ。

独りでふらっと立ち寄ると、近頃はほぼほぼ満席。なんとか独りならカウンターのどこかで一杯やれるが、ふたりで出向くときは、必ず予約を入れるようになった。気づくとカウンターには、いい感じの酒呑みたちがずらりと座っている。
そういえば、前回は両隣とも女性のひとり客で、ひとりは旅人。お酒が進むにつれて三人で話し込み、いつしか盛り上がっていた。いやあ、独り呑みの醍醐味です。
メディアでもちょくちょく紹介されているから、この秋はひょっとしたら大賑わいか?
まあ、近くに住んでいるのだから慌てず騒がず。ちょくちょく覗いて一杯やろう。

路地
見落としてしまいそうな路地の奥に「お酒と食事 うり」はある。見つけにくいからこそ、辿り着いたときは、嬉しくなるのだ。

店舗情報店舗情報

お酒と食事 うり
  • 【住所】京都府京都市下京区足袋屋町317‐15
  • 【電話番号】075‐433‐7899
  • 【営業時間】17:00~23:00
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】阪急「河原町駅」より5分、京都市営地下鉄「四条駅」より8分

文:中井シノブ 写真:竹中稔彦

中井 シノブ

中井 シノブ (編集者・ライター)

京都在住。情報雑誌の編集長を経てフリーの編集、ライターとして活動する。京都の飲食店取材は1万軒以上。趣味は外酒、外飯。著書に『京の一生もん』(紫紅社)、『京都女子酒場』(青幻社)、『奇跡のレシピ』(KADOKAWA)共著などがある。