ジョージアワインを愛する「サエキ飯店」店主の佐伯悠太郎さん。彼のつくる広東料理を「オレンジワイン」と呼ばれる甕仕込みのジョージアワインと共にいただいてみよう。前回の前菜に続き、ある日のコース料理の中から料理2品とその料理に合ったジョージアワインを紹介してもらいましょう。
広東料理を提供する「サエキ飯店」で3品の料理をつくってもらい、それぞれの料理には、どのワインが飲みたいのかを、店主の佐伯悠太郎さんに選んでもらった。
前回に登場した冷前菜“鳩の煮汁で炊いて冷ました豚耳と豚足”に続いて登場したのは、魚料理だった。
“アカハタの蒸し物のチキンオイルがけ”。高知県の漁港から直送されたアカハタを丸ごと1匹使った料理。新鮮なアカハタのおいしさを活かすべく、料理法はいたってシンプル。強火で蒸し上げ、鶏肉から抽出したチキンオイルをかけて仕上げる。
たれの醤油には、上湯スープの二番だしを加えてあり、旨味がさらに増す。
佐伯さんが選んだワインは「ザザ・ダルサヴェリゼ」の「ルカツィテリ2011」。ブドウ品種はルカツィテリ。
「ジョージアワインはインパクトが強いタイプが多いのですが、この料理には上品で飲みやすい『ザザ』が合うと思います」
魚とチキンオイルの旨味を含んだたれの旨いこと!
こんなにおいしいたれを残すのはもったいない。という思いを読み取るかのように、「ご飯もありますよ。たれごとかけて召し上がってください」と、佐伯さんが声をかけてくれた。
そして、コース料理の〆に登場する麺料理が供された。
澄んだスープが印象的だ。
料理名は“上湯麺”。金華ハム、鶏、豚からとった渾身のスープを味わってもらうため、汁がよくからむ国産の玉子麺を選んでいる。
白湯スープの用意があればそちらを選ぶこともできる。蝦雲呑を添えることもあるという。
「僕がこの麺を食べるなら、飲みたいワインは『フェザンツ・ティアーズ』のジョンが育てた、ムツヴァネ品種で造る『ムツヴァネ2012』かなぁ。ジョンのワインはフルーティで、それでいて上品で、酸味もあります。動物系の旨味が前面に出たスープとフルーティな酸味が合うと思うんです」
最後に、ジョージアを再訪したいか、と訊ねた。
「何度も行くと思います。必ずしもワイナリーめぐりはしたいとは思っていませんが」
トビリシ市内にある「ヴィノ・アンダーグラウンド」でアンバーワインを飲んだとき、「IAGO BITARISHVILI(イアゴ・ビタリシュヴィリ)」の「チヌリ2015」に感激し、ワイナリーも訪ねた。でも今は、ジョージアを再訪してもワイナリーには行かなくてもいいと言うのだ。
では、何をしたいのか?
「トビリシでワインを飲みたいです。ワインと出会う前、ジョージアに着いた瞬間、あの国が好きになりました。ジョージアのどこか好きというと、空気がいいんです。治安もいいし。それでアンバーワインを飲んだものだからますます惚れちゃいました」
帰国後、ジョージアワインを熱心に探した。それほどジョージアワインにもジョージアという国にも心底惚れ込んでしまった。
「僕の体はジョージアワインでできています。これ、マジですから(笑)」
世界を1年放浪した末、生まれた国以外に、自分が帰るべき土地を見つけられたのだとしたら、佐伯さん、あなたは幸せな人だ。
それにしてもまさか広東料理とジョージアワインが、これほど相性がいいとは想像すらしなかった。
ジョージアワインの懐の深さを思い知られた。
――つづく。
1985年、愛媛県松山市生まれ。「聘珍樓」、「福臨門酒家(現:家全七福酒家)大阪店」、「赤坂璃宮」で修業。ワーキングホリデーを利用し、香港で1年間研鑽を積む。東京・外苑前「楽記」(閉店)の料理長を務めた後、香港・広州を皮切りに世界33カ国を約1年間かけて周遊。帰国後、東京・外苑前「傳」で研修。2019年4月に独立し、「サエキ飯店」を開業する。
文:中島茂信 写真:オカダタカオ