「オレンジワイン」と呼ばれる、白ワインでオレンジ色を帯びた甕仕込みのジョージアワインは、どこで飲める?そしてどんな料理と合うのか?ジョージアワインと広東料理を提供する「サエキ飯店」を訪ねた。
近年、都内でジョージアワインを飲むことができるレストランやワインバーが増えている。
試飲会やイベントでジョージアワインを体感し、その味を気に入った料理人やソムリエがジョージアワインの扱いを始めるケースが多い。
中には、ジョージアで「アンバーワイン」と呼ばれるオレンジ色の白ワインに遭遇し、開眼した人もいる。
「サエキ飯店」店主の、佐伯悠太郎さんである。
佐伯さんは、2019年4月、東京・目黒と恵比寿の間に自身の店を開業した料理人。
独立前、ヨーロッパとアジアの境にある国、ジョージアで現地の伝統的な造りのワインと出会い、その味に惚れ込んでしまった。
自身の店では常時16種類ほどのジョージアワインをメニューに掲げているが、まだ物件が決まる前からジョージアワインを置こうと決めていたというのだ。
ジョージアワインにはまった体験談を語ってもらった。
「2016年に、1年間世界を放浪する旅に出ました。旅の途中で、ジョージアはワインが旨いと聞きつけ、首都のトビリシに2週間滞在したんです」
佐伯さんはその間、トビリシ市内にあるワインバー「ヴィノ・アンダーグラウンド」に通った。
「ヴィノ・アンダーグラウンド」は、クヴェヴリ(甕)でワインを造っている、クヴェヴリ・ワイン協会会員のワインが飲めるワインバーだ。
「ヴィノ・アンダーグラウンド」で「IAGO BITARISHVILI(イアゴ・ビタリシュヴィリ)」や「DOREMI(ドレミ)」、「PHEASANT'S TEARS(フェザンツ・ティアーズ)」など、現在、「サエキ飯店」で扱うワインのほとんどを賞味した。
現地で初めて、甕仕込みのワインを飲んだ時の印象を訊ねた。
「飲んだのはすべてアンバーワインです。でも、口にした瞬間はそれほど大きなインパクトはありませんでした」
ところが、その翌朝、「余韻がじわじわと襲ってきた」と言うのだ。
「夕べのワインは美味しかったなぁって、じわじわ蘇ってくるようなインパクトがありました。自分の料理と合う、合わないは関係なく、翌日の朝になってジョージアワインにパワーを感じたんです。それは、飲み物としてのエネルギーとか、造り手の情熱みたいなものなのかもしれません。一番衝撃を受けたのは、『イアゴ・ビタリシュヴィリ』の『チヌリ2015』でした」
そしてこう付け加えた。
「理屈じゃないんですよ。ジョージアワインも同じ。好きになっちゃったんです(笑)」
帰国後、佐伯さんはいろいろなジョージアワインを自宅で飲んだ。
「最初は見向きもしなかったのですが、1週間後、心が動かされたワインもあります」
女の子にしてもジョージアワインにしても、一途になるのに理屈も理由もへったくれもない。みなさんも経験ありますよね?
世界を1年にわたって放浪した成果のひとつが、ジョージアワインとの出会いだったのだ。
日本に帰ってきてからもジョージアワインのことが忘れがたく、ネットで調べているうちに思いが募り、ますます離れがたい存在になっていった。
独立を決意し、物件が決まるまでの半年間、「ノンナアンドシディ」と「ラシーヌ」というインポータが扱うジョージアワインを買い込み、自宅でボトルを開けた。
「1週間に1本飲んでいました」
時間を見つけては、東京・恵比寿「ノンナアンドシディ・ショップ」へ通った。
「ジョージアワインは開栓後、徐々に味が変わることに気づきました。店の方に、その味の変化もジョージアワインの楽しみ方なんだと教えてもらいました」
ジョージアワインに関して、もうひとつわかったことがある。定期的に入荷するものではないという事実だった。
まだ物件が決まっていなかったが、扱いたいと切望していたワインが欠品になりはしないかと思うと、気がかりでならなかった。
「ノンナアンドシディ」のオーナー、岡崎玲子さんに電話で相談した。佐伯さんが試飲会に来てくれていたことなども加味し、ジョージアワインを仕入れさせてもらえることになった。
「開業前にもかかわらず、扱わせてもらった岡崎さんにはとても感謝しています」
晴れて物件が決まり、「サエキ飯店」をオープン。
創業当初からジョージアワインを扱っているが、「うちはワインバーでもなければ、ジョージアワインと広東料理だけの店でもありません」と佐伯さんは釘を刺す。
「純粋に自分が好きなワインを置いているだけです。別の店で働いていた時代からのお客様もいらっしゃるし、紹興酒を飲む方もいれば、香港のクラフトビールを頼む方もいます」
とはいえ、ジョージアワイン好きも足を運ぶ店であることには間違いない。
実は、私も開業して数週間後に伺った。頼んだのはもちろんジョージアのアンバーワイン。
私が頼んだワインの評価を佐伯さんから聞いた覚えはあるが、「この料理にはこっちのワインが合います」というような説明はなかった。
料理とワインとの相性を考えているのかどうか、佐伯さんに訊ねてみた。
「ひとりでやっているので正直言って、ワインとの相性を考える余裕がありません(苦笑)」
中には「次の料理に合うワインはなんですか」と訊かれたら、その時にあるワインの中から合いそうなワインを勧めることもある。
「ジョージアワインに興味がある方で、僕にワインを選ばせてくれるのなら、造り手やワインの違いを楽しんでもらえるように、いろいろなバリエーションのワインをお出しします」
12席のこの店には、カウンターや椅子やカーテンもジョージアワインも含め、佐伯さんが好きなものだけが詰まっている。
料理だって自分が食べたいものを出すのが、佐伯さんの流儀だ。
「僕の料理と、僕が大好きなジョージアワインなので、相性がいいんじゃないのかなぁと勝手に思っています」
つくっているとき味見をする。その瞬間、「この料理には、どのワイナリーの、あのブドウ品種が合うな」と感じることはある。
「でも、細かいことはあまり考えません。ジョージアワインって、理屈っぽいことを考えながら飲むものではないと思っているから」
ーーつづく。
1985年、愛媛県松山市生まれ。「聘珍樓」、「福臨門酒家(現:家全七福酒家)大阪店」、「赤坂璃宮」で修業。ワーキングホリデーを利用し、香港で1年間研鑽を積む。東京・外苑前「楽記」(閉店)の料理長を務めた後、香港・広州を皮切りに世界33カ国を約1年間かけて周遊。帰国後、東京・外苑前「傳」で研修。2019年4月に独立し、「サエキ飯店」を開業する。
文:中島茂信 写真:オカダタカオ