オレンジ色のじんわり系「ジョージアワイン」ってなんだ?
インポーターが語る、甕造りのジョージアワインの魅力。

インポーターが語る、甕造りのジョージアワインの魅力。

ジョージアワインのインポーターであり、食のセレクトショップ「ノンナアンドシディ」を営む、岡崎玲子さんと娘の満里さん。人気に火が付きつつある、土に埋めた甕の中で醸すジョージアワインの「今」と、その魅力を語ってもらいます。

はじめは「?」でも、飲むほどに深みにはまるワインです。

昨今、ジョージアワイン好きが急増中。家庭で嗜む人はもちろん、ジョージアワインを飲ませてくれるレストランも増えている。都内だけでなく、地方でも扱う飲食店も現れてきた。
東京は恵比寿にある食のセレクトショップ「ノンナアンドシディ」が開いてきた、小さな試飲会が影響していると思えてならない。試飲会とは銘打っていなくても、ジョージアワインに興味がある人が来店すると、お勧めのワインをグラスに注いできた。
その結果、今日のジョージアワイン・ブームになったのではないか。
ジョージアワインの魅力を広めてきた岡崎玲子さんと満里さん親子に、あらためてその特長を語り尽くしてもらった。

「うちのジョージアワインは全部好き」と娘の満里さんが言うと、「それは当然よ。だって好きな人のワインばかりなんだから」と母で「ノンナアンドシディ」オーナーの岡崎玲子さんが返す。
岡崎さん親子はジョージアのワイン生産者を訪ね、交流を深めてきた。カヘティ地方にあるワイナリー「ニカ」を訪問した時のもの。左が当主のニカ・バヒアさん。
2014年、「アワワイン」の造り手のひとり、ソリコ・ツァイシュヴィリさん(右)の自宅で撮った思い出の1枚。左は「フェザンツ・ティアーズ」のジョン・ワーグナーさん。
満里さん
母が扱うすべてのジョージアワインを自宅で飲んだのですが、最初のひと口はわけがわかりませんでした(笑)。でも、飲み進めるうちに見えてきました。とくに土に埋めた甕の中で醸すジョージアワインは、飲めば飲むほど深みにはまるワインだと思います。ジョージアワインをひと言で語るなら、“これまでなかったワイン”といえると思います。
岡崎さん
最初はびっくりするけど、飲み進めるうちに美味しいなあって思えてくるの。
満里さん
そうそう、そんな感じ(笑)。
岡崎さん
イタリアワインは、ひと口飲んだときにインパクトを感じるけど、その印象がそのまま続く感じ。ジョージアワインは、インパクトを受けた後に自分の中で評価がだんだん高まっていく感じなの。ずっと飲んでいても飽きないし、飲み疲れないのよ。
満里さん
ジョージアワインを扱い始めてから半年後、母と一緒にジョージアへ行きました。現地で飲んだほうが、断然美味しかった。造り手に会ったからというのもあると思いますが、それだけではないはず。うちでは主に東ジョージアのワインを扱っているのですが、東ジョージアの人は人柄もワインも明るいんです。よく喋るし、よく笑う。
岡崎さん
西側に比べると東ジョージアにはワイナリーが集まっていて、突然訪ねてもどんどん人が集まってきて大騒ぎ(笑)。よくあんなにたくさん料理をつくれるなぁと驚くぐらい、いろいろな料理をつくってくれます。
満里さん
エチケットの貼られていないワインボトルが次々と開栓されるんです。
岡崎さん
ジョージア人はお客をもてなすのが大好き。サインペンでブドウ品種を書いてくれたボトルが、テーブルにがんがん並べられていくの(笑)。
満里さん
私は2回ジョージアへ行ったけど、お母さんは6回よね?
岡崎さん
初めて行ったとき、映画『ナルニア国物語』の世界に迷い込んだ感じだった。ジョージアには、遠い昔からのこんな言い伝えがあるの。神様が世界の人々を集めて、土地を分け与えようとしたとき、ジョージア人は嬉しくてワインを飲み過ぎてその集まりに遅刻しまうの。神様はこう言います、もう土地はみんなに分け与えてしまったので、あなた方にあげる土地はありません。泣いて悲しむジョージア人を見た神様は可哀想になり、自分のためにとっておいた土地を与えました。狭いけれど、四季があり、川が流れ、一番きれいな土地……。それがジョージアだったと言われているの。素敵な話でしょ。
ジョージアのカヘティ地方東部にあるシグナギの風景。遠くには、ヨーロッパとアジアをわけるコーカサス山脈が横たわっている。
満里さん
樹齢400年のブドウでワインを造っているギオルギ・ナテナゼさんは、ポリバケツで醸しています。それは特例で、うちで扱うその他のワインはすべて、クヴェヴリ(甕)で醸したものです。
岡崎さん
いつだったかジョン※1が教えてくれたんだけど、きちんとブドウを育ててあげると、“ブドウが勝手にワインを造る”んですって。クヴェヴリを土中に埋めるので、土のエネルギーも貰える。つまり、ワインは人が造るのではなく、土中で呼吸をしながら成長し、生まれるもの……。それがジョージア人が考えるワインなんだそうです。

※1 ジョン……ジョージアワイン「PHEASANT’S TEARS(フェザンツ・ティアーズ)」の造り手、ジョン・ワーデマンさんのこと。(→ジョージアワイン、こちらもいかが?」参照)

これがクヴェヴリ(甕)。ブドウ畑の脇に使われていないものが置いてあった。
「フェザンツ・ティアーズ」のマラニ(醸造所)。2015年に増設したクヴェヴリが埋まる。
カヘティ地方のチバンニにある「フェザンツ・ティアーズ」のブドウ畑。

ワインにも人間にも「癒し」が満ちています。

「ノンナアンドシディ」が扱うジョージアワインは、すべてクヴェヴリ(甕)で醸したもの。イベントに出展すると必ず大勢の人が集まってくる。


――ジョージアワインがブームになっていると感じますか?

岡崎さん
扱い始めた5年前は、まったく反応がありませんでした。いまではジョージアがどんな国なのか、話を聞きに来るお客様がたくさんいます。実際、輸入量は当初の5倍に伸びました。初年度は2,300本。現在は13,000本。
満里さん
以前は説明をして、やっと興味を示してくれる人が大半でした。最近は銘柄を指定して買いに来てくれる方が増えています。
岡崎さん
ときどき店で試飲会を開くのですが、ワイン好きはもちろん、レストランの方も大勢来ていただけるようになりました。
満里さん
初めて試飲した人に感想をお聞きすると賛否両論です。「こんなワインを待っていた!」という方もいれば、「いままで飲んできたワインとぜんぜん違う」という方もいます。
岡崎さん
「なんだかわからない」とこぼす人もいるわね。
満里さん
ジョージアに興味を持って、行ってみたいとおっしゃってくれる方も増えてきました。
岡崎さん
ジョンのワインを買ってくれた人の中には、ジョンに会いに行った人もいます。


――「ノンナアンドシディ」はもともとイタリア食材専門のインポーターでした。イタリア人とジョージア人の違いはどんなところに感じますか?

岡崎さん
イタリア人は陽気で明るくて楽しい。ジョージア人は、一緒にいると癒やされるの。その国民性がワインにも影響が出ていると思うんです。ジョージアワインは癒やされるし、ずっと飲めます。
満里さん
ジョージア人といると、明るくて楽しくて落ち着きます。
岡崎さん
イタリア人は、「何かあったらいくらでも相談して」、「好きなだけうちに泊まっていって」とも言ってくます。でも、ジョージア人は、「いつ帰ってくるの?」と訊いてくれるの。「いつ来るの?」とは意味がまったく違う。私は、その言葉にジョージアを感じます。ごっつい顔をしている人が多いので近づきがたいイメージがありますが、懐に入ってしまうと家族として接してくれます。それがジョージア人。

私も一度でいいからジョージア人に「いつ帰ってくるの?」と言われてみたい。それにはジョージアへ行くしかない。行きたいなあ。アメリカの「Georgia on My Mind」ならぬ、ヨーロッパとアジアの境にある我が心のふるさと、ジョージアへ。

次回は、ジョージアワインの魅力に取り憑かれた広東料理店「サエキ飯店」(東京都目黒区)の佐伯悠太郎さんに登場いただきます。

ーーつづく。 


店舗情報店舗情報

ノンナアンドシディ・ショップ
  • 【住所】東京都渋谷区恵比寿西2‐10‐6
  • 【電話番号】03‐5458‐0507
  • 【営業時間】11:00~19:00
  • 【定休日】日曜、祝日
  • 【アクセス】JR・東京メトロ「恵比寿駅」より5分

文:中島茂信 写真:邑口京一郎

ジョージアワインの9人②③

岡崎玲子

岡崎玲子(おかざき・れいこ)

東京生まれ。成城学園中学校高等学校を経て、成城大学文学部マスコミュニケーション学科卒業。24歳のとき、現代美術の有名な画家と一緒に絵を書き始める。1995年にオリーブオイルを生産するイタリア人夫婦と出会う。彼らのオリーブオイルを日本に紹介したいと思い、同年に「ノンナアンドシディ」を創業。

邑口満里

邑口満里(むらぐち・まり)

ヴェネズエラ生まれ。高校2年のとき、ロサンゼルス、ニューヨークの芸術高校に留学。9.11を期に帰国。学習院女子大学卒業後、音楽活動を開始する。音楽会社に就職するも退職し、「ノンナアンドシディ」入社。2010年2月、「ノンナアンドシディ・ショップ」開業と同時にオペレーションを担当する。2014年、dancyu本誌でも活躍中のカメラマンの邑口京一郎さんと結婚。

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中島 茂信(ライター)

1960年、東京都葛飾区生まれ。4歳の頃、亀戸天神の近くにあった「田久保精肉店」のコロッケと出会って以来コロッケ好き。趣味はラードで揚げたコロッケの買い食い。最後の晩餐はもちろんコロッケ。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』(枻出版社)、『101本の万年筆』(阪急コミュニケーションズ)、直木賞作家の山口瞳さんの妻である治子さんの聞き書き『瞳さんと』(小学館)、『自家菜園レストラン』(コモンズ)など。企画・編集に『笠原将弘のおやつまみ』(ぶんか社)、『平翠軒のごちそう宝箱』(小学館)がある。