オレンジ色のじんわり系「ジョージアワイン」ってなんだ?
ジョージアワイン、こちらもいかが?

ジョージアワイン、こちらもいかが?

東京は恵比寿にある食材店「ノンナアンドシディ」は、ニッチなジョージアワインのインポーターである。コツコツとファンを増やしてきた。店を切り盛りする母と娘に、思い入れのあるワインを教えてもらった。

ベストフレンドが造るハチミツのような香りのワイン。

同じ造り手でも、気に入った銘柄のみを扱うインポーターもいるようだが、「ノンナアンドシディ」の岡崎玲子さんの場合は、かなり異質である。
「その人が造るワインをすべて買うことにしているの。だってそうしないとその造り手の人間性が見えてこないから」

天然キャラで、ゴーイングマイウェイで、ほんわかした岡崎玲子さん。

数種類のみのワインを扱うだけては、「その人が言いたいことはわからない」というのだ。
自然相手なのでぶどうの出来は毎年変わる。それでもコンスタントに取引きするのが岡崎さんのポリシーであり、スタンスなのだ。
「好きになった造り手とは、一生付き合いたい。だから初対面のとき一生付き合えるかどうかを、自分なりに観察することにしているの」
ジョン・ワーデマンさんとは、一生付き合うつもりだ。
「最近ジョンはワインを20種類造っているの。それはそれでまた大変なのよ」
と言うとちょっと困ったような顔をした。

岡崎さんがジョージアで話すビジネス英語は、3つだけ。
「I love your wine.(あなたのワインを愛しています)」
「May I buy your wine?(ワインを売ってくれますか?)」
「I want to you sell your wine.(あなたのワインを売らせてください)」

相手が首を縦に振ったら、すべてのワインをオーダーするというのだ。
それがインポーターとして正しい姿勢なのかどうかわからない。
けれど、ジョンさんには、「あなたはインポーター以前に、ベストフレンド。何も心配することはない、なんでもやってあげる」と言われたそうだ。
最高の褒め言葉ではないか。算盤勘定なしに付き合える関係を築けたのは、天然キャラの岡崎さんならでは。
ひとつ面白いエピソードがある。
ジョンさんが頼んでくれた運転手付きのクルマであちこちを案内してもらった。その運転手が、岡崎さんのことを最後まで会社社長だと信じなかったというのだ。社長としての威厳を感じさせなかったのではなく、ジョージア人にも岡崎さんの天然キャラが伝わるのではないか。

そのジョンさんが造ったワインがこちらだ。

PHEASANT’S TEARS(フェザンツ・ティアーズ) ルカツィテリ2012
グラスワイン

「PHEASANT’S TEARS(フェザンツ・ティアーズ) ルカツィテリ2012」3,400円(ここで紹介するすべてのワインの価格は2019年10月現在の税抜価格です)。
ジョージア人のゲラ・パタリシュヴィリさんが立ち上げ、アメリカ人のジョン・ワーデマンさんが後年に参画したワイナリー。
ニューメキシコ州で生まれたジョンさんはモスクワの大学で絵画を専攻。その後、ジョージアでポリフォニーを研究して、ポリフォニー歌手と結婚、ジョージアに骨を埋めることにした。
「ジョージアを語るならワインを造らないと意味がないと悟り、ワイナリーを始めた」という。
ルカツィテリ品種で造ったこのワインは、ハチミツのような香りがすると、岡崎さんの娘であり、共に店を切り盛りする邑口満里さんは言う。
「辛口で重め。ほのかにアプリコットやクルミの香りもします。ローストした鶏肉や鴨肉にも合いますが、あっさりとした料理にも主張しすぎず、合うと思います」

ジョンさんは、レストランを経営している。トビリシにある「ポリフォニア」と「アザルペシャ」、シグナギ(カヘティ地方の最東端)にある「フェザンツ・ティアーズ」の3軒だ。海外人観光客がジョンさんのレストランへ行く機会も多く、さながらジョージアワインのアンテナショップとして注目されている。
近年、クヴェヴリワインが世界で注目されていることから、海外の取材班がジョージアを訪れる機会が増えてきた。母国語の英語に加え、ロシア語、ジョージア語も堪能なジョンさんは、彼らの通訳として対応している。
つまり、彼はワイナリーのオーナーであり、ジョージアワインの広報も担ってきたのだ。
11月1日よりドキュメンタリー映画「ジョージア、ワインが生まれたところ」が公開される。同映画にジョンさんも登場するのだが、その中で感動的なセリフを語っている。
「私たちのぶどう畑には、人びとの血と涙と祈りが染みわたっている」

まだまだある。じんわり沁みる甕仕込みワイン。

「OUR WINE(アワワイン)」、「フェザンツ・ティアーズ」以外にも、岡崎さんと満里さん親子が思い入れを持つワインはまだまだある。
たとえば、紅茶っぽい印象で入門者にも入りやすい甕仕込みのジョージアワイン「DOREMI(ドレミ)キシ2016」。岡崎さん曰く「飲みやすくて、何も考えず、素直に飲めます。“キシ”というぶどう品種を使っていて、ブドウの果実味、果皮の軽い渋味も感じます」。

28歳のショータ・ラガジさん(Shota Lagazidze)が造る「LAGAZI(ラガジ) サペラヴィ2017」。
「アルコール度数は12度だけど、強く感じるの。味にインパクトがあるからかしら」と、評する「OKRO’S WINE(オクロズワイン) ムツヴァネ2016」。

それに、ごくマイペースな芸術家、ニカが醸す「NIKA(ニカ) アモール2015」にはこんな逸話がある。岡崎さん、満里さんが現地の彼のワイナリーを訪ねたときのことだ。
「ジョージアでは毎年5月に新酒会が開かれ、各ワイナリーにオーダーが入るんです。各ワイナリーは注文後、ボトリングするのでクヴェヴリにワインがなくなってしまうのですが、ニカさんのところは不思議となくならないの。いつボトリングしているのかとニカに質問したら、『ぶどうに訊いて』と言われたの。ニカは何も決めず、試飲したそのときの感覚でボトリングする、マイペースの人なんです」

「DOREMI(ドレミ)キシ2016」3,600円。ギオルギ、マムカ 、ガブリエルの、3人の友人が2013年に始めたワイナリー。有機栽培で育てたぶどうを手摘みで収穫。軽くプレスした果汁を果皮も一緒にクヴェヴリ(甕)に移し、野生酵母だけで、醗酵させている。
「LAGAZI(ラガジ) サペラヴィ2017」4,700円。現在、旅行ガイドとワイナリーの二足のわらじを履いている若手醸造家、ショータ・ラガジさんがカヘティ地方のアルヴァニ村に設立したワイナリー。ジョージアでもっとも栽培されているサペラヴィ品種を使用。
「OKRO’S WINE(オクロズワイン) ムツヴァネ2016」3,800円。イギリスの大学で生物学を学んだジョージア人、ジョン・オクロが始めたワイナリー。エチケットは、ときに「ゴールデングループ」と表記されることもある。オクロズワインの会社名は「オクログループ」といい、オクロはジョージア語で「金」を意味するため。
「NIKA(ニカ) アモール2015」4,200円。彫刻家でもあるニカ・バヒアさんが営むワイナリーで、エチケットはニカが描いている。ワインの名前はすべてファミリーネーム。サペラヴィ品種で醸したこのアモールは妻の名前だ。

2人が思い入れのあるワインはこれだけに収まらない。もし店を訪れたなら、今回挙げた以外の造り手のワインにめぐりあえるだろう。

次回は、ジョージアのワイナリーを6度にわたって見聞した岡崎さんと、2度ジョージアへ行ったことがある満里さん親子による、ジョージア体験談を語ってもらう。

ーーつづく。

店舗情報店舗情報

ノンナアンドシディ・ショップ
  • 【住所】東京都渋谷区恵比寿西2‐10‐6
  • 【電話番号】03‐5458‐0507
  • 【営業時間】11:00~19:00
  • 【定休日】日曜、祝日
  • 【アクセス】JR・東京メトロ「恵比寿駅」より5分

文:中島茂信 写真:邑口京一郎

ジョージアワインの9人②③

岡崎玲子

岡崎玲子(おかざき・れいこ)

東京生まれ。成城学園中学校高等学校を経て、成城大学文学部マスコミュニケーション学科卒業。24歳のとき、現代美術の有名な画家と一緒に絵を書き始める。1995年にオリーブオイルを生産するイタリア人夫婦と出会う。彼らのオリーブオイルを日本に紹介したいと思い、同年に「ノンナアンドシディ」を創業。

邑口満里

邑口満里(むらぐち・まり)

ヴェネズエラ生まれ。高校2年のとき、ロサンゼルス、ニューヨークの芸術高校に留学。9.11を期に帰国。学習院女子大学卒業後、音楽活動を開始する。音楽会社に就職するも退職し、「ノンナアンドシディ」入社。2010年2月、「ノンナアンドシディ・ショップ」開業と同時にオペレーションを担当する。2014年、dancyu本誌でも活躍中のカメラマンの邑口京一郎さんと結婚。

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中島 茂信(ライター)

1960年、東京都葛飾区生まれ。4歳の頃、亀戸天神の近くにあった「田久保精肉店」のコロッケと出会って以来コロッケ好き。趣味はラードで揚げたコロッケの買い食い。最後の晩餐はもちろんコロッケ。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』(枻出版社)、『101本の万年筆』(阪急コミュニケーションズ)、直木賞作家の山口瞳さんの妻である治子さんの聞き書き『瞳さんと』(小学館)、『自家菜園レストラン』(コモンズ)など。企画・編集に『笠原将弘のおやつまみ』(ぶんか社)、『平翠軒のごちそう宝箱』(小学館)がある。