コツコツとジョージアワインファンを増やしている食材店「ノンナアンドシディ」では、どんなジョージアワインを扱っているのか?いずれも生産量が少ない甕造りのワインだけに在庫は流動的なものの、その代表的な銘柄を紹介してもらおう。
「ノンナアンドシディ」オーナーの岡崎玲子さんが、ジョージアの地へ足を踏み入れて最初に会ったワインの造り手が、「OUR WINE(アワワイン)」のソリコ・ツァイシュヴィリさんだった。
「初対面であまり話をしてくれなかったけど、人間としての存在感がにじみ出ているような人だったの。深い悲しみをたたえていたけど、優しい人でした」
「アワワイン」では、ソリコさんを含め、6人でブドウを栽培してきた。醸すのはソリコさんだが、6人でワインを造ってきた。だから“OUR WINE”。
甕仕込みのジョージアワインを飲むなら、まずは「アワワイン」の白を試すといいかもしれない。甕で醸した白の特徴が顕著に出ていると、私は勝手に思っているからだ。
実は、私が初めて知ったジョージアワインが、「アワワイン」の白だった。私はそれを、一瞬、ロゼだと思った。ワイン通でもなんでもない。けれど、まったく透き通っていない、オレンジ色のワインを断じて白だとは思えなかった。
濃厚で、奥深く、旨味と甘味を含んでいた。
ソリコさんが醸した白ワインが持つ圧倒的な力と、口の中に広がる存在感に打ちのめされた。頬をひっぱたかれたかのような体験だった。
現在、「アワワイン」の白は品切れだが、2020年1月頃入荷予定だという。生産量が少なく、希少価値が高いワインをぜひ賞味したい。
私がジョージアワインを初体験した日、岡崎さんはこんな話をしてくれた。
ジョージアでは、人間が入れるぐらい大きな素焼きのクヴェヴリ(甕)でワインを醸していること。
その甕を口元まで土中に埋め、ブドウの実だけでなく、ツルも入れて醗酵させていること。
白ワインでありながら琥珀色をしていることから、「アンバーワイン」と呼ばれていること。
その造り方がいま、世界でも注目されていること。
ジョージアでは白ワインは常温で、赤ワインは冷やして飲むこと。
岡崎さん親子に感化され、自分自身が“ジョージアワインウイルス”に感染して、感染者特有の「症状」がふたつ見受けられることを感じた。
ひとつは、ジョージアワインを知らない人に、その魅力を伝えたがる傾向が強いこと。
岡崎さんと娘の満里さんがジョージアワインを勧めたがるのは、そんな理由ではないかと勝手に解釈している。満里さんが何も説明せず、ジョージアワインを私に勧めたように、私も無言で友人に飲んでもらうことにしている。ワインには詳しくないだとか、あまり飲まないだとか、そんなことはまったく関係ない。まずはジョージアを舌で、体で体験すべきではないか。
未知の国の歴史と文化を、舌で感じることができる機会は、いまの時代なかなかあるものではない。「なんだ、このヘンなワイン?」と思ったとしてもそれはそれでいいのではないか。ふた口目で印象ががらりと変わる可能性を秘めている。それがジョージアワインだ。
もうひとつは、風邪のウイルスと違い、“ジョージアワインウイルス”を移すと、不思議と喜ばれること。「こんなワインがあったんだ!?」と。私自身、ジョージアワインという深遠なる、深い海に引きずり込んでくれた岡崎さん親子には、とても感謝している。
冒頭で触れたように、岡崎さんが最初に出会ったジョージアワインの造り手が、アワワインのソリコ・ツァイシュヴィリさんだった。私が初めて口にしたジョージアワインでもある。
「ソリコはジョージアワインのカリスマ的存在です。ソリコのワインはどれも独特。とくに白はソリコでないと造れないワインなの。ブドウがどうしてあんなワインになるんだろうと思わせてくれるワインなの」。そして、ソリコが育てきたサペラヴィ品種で造るこのワインは「クランベリーと山ブドウをミックスしたような味」と岡崎さんは表現する。
ソリコさんはジョージアのワイナリーだけでなく、岡崎さんにとってもカリスマだった。岡崎さんはソリコさんの白ワインをひとりでも多くの人に飲んでもらいたいと、ずっと努めてきた。
実際、ジョージアワインの虜になった人の大半は、ソリコさんのファンだといっても過言ではない。私もそのひとり。
ソリコさんのワイン造りは、自家用のクヴェヴリワインから始まった、当時のソリコさんは文学者として出版社に勤めていて、雑誌の編集に携わっていた。2001年頃から友人たちとワイン造りにのめり込んでいったソリコさんは出版社を退職して、2003年に「アワワイン」を創業する。
2010年には友人たちと「クヴェヴリ・ワイン協会」を設立。その翌年に自分たちのワインを飲むことができるレストラン「ヴィノ・アンダーグランド」をトビリシにオープンした。
自家用だったジョージアのクヴェヴリワインを、世界に広めようとしてきたのが、ソリコさんだった。
2018年、ソリコさんは病に倒れ、この世を去った。
「ソリコのワイン造りを、アワワインに関わりの深いダトさんとメラブさんが継承しました。これからのアワワインは透明感がある仕上がりになるかも」
岡崎さんは、ソリコさん亡き後のアワワインを長い目で見ていくつもりだそうだ。
次回は、その他の銘柄についても訊いていこう。
――つづく。
文:中島茂信 写真:邑口京一郎
東京生まれ。成城学園中学校高等学校を経て、成城大学文学部マスコミュニケーション学科卒業。24歳のとき、現代美術の有名な画家と一緒に絵を書き始める。1995年にオリーブオイルを生産するイタリア人夫婦と出会う。彼らのオリーブオイルを日本に紹介したいと思い、同年に「ノンナアンドシディ」を創業。
ヴェネズエラ生まれ。高校2年のとき、ロサンゼルス、ニューヨークの芸術高校に留学。9.11を期に帰国。学習院女子大学卒業後、音楽活動を開始する。音楽会社に就職するも退職し、「ノンナアンドシディ」入社。2010年2月、「ノンナアンドシディ・ショップ」開業と同時にオペレーションを担当する。2014年、dancyu本誌でも活躍中のカメラマンの邑口京一郎さんと結婚。