石原壮一郎さんの青春18きっぷ行き当たりばっ旅。
静岡の「さわやか」タイムは1時間。

静岡の「さわやか」タイムは1時間。

朝6時に池袋に集合して鈍行列車を乗り継ぎ、静岡までやって来ました。この地で、次の電車が出発するまでの間に、石原壮一郎さんにはどうしても食べたいものがあるんだとか。静岡の人気店「さわやか」に挑みます。

挑戦こそが青春だ!

「大人気らしいけど、開店と同時に行けばきっとすんなり入れるんじゃないかな」
東海道線の車内で、私は希望的観測に基づいて力強く宣言しました。のちに、その見通しは甘々だったことを思い知らされます。フレッシュ系若手編集者のカワノ君は「無理そうだったら、また駅弁を買って『食べられなかったけど、どんな味だったのかなあ』という流れにしましょう」と気弱な発言をしていましたが、その事態はどうにか回避できました。
静岡といえば「さわやか」のハンバーグ。ちょっと前にネットなどで大きな話題となり、ぜひ食べてみたいと常々想っていました。心配なのは、いつも大行列だという噂。夕方までに三重県松阪市に着きたい私たち「青春3人組」には、悠長に行列に並んでいる時間はありません。青春は待ったなしです。

静岡駅

下調べをしない「行き当たりばっ旅」のはずなのに「さわやか」に関してだけは、東海道線の駅から歩いて行ける店はどこか、開店時間は何時かを調べました。

どうしても「さわやか」に行きたかったんです!

大評判のハンバーグを食べてみたかったんです!

青春には「さわやか」という言葉がまさにピッタリじゃないですか!

と、店名にそぐわない暑苦しい言い訳で恐縮です。

熱海駅から1時間ちょっとの旅で、静岡駅に着いたのは10時50分。静岡駅にほど近い新静岡駅の駅ビル内に「さわやか 新静岡セノバ店」があるようです。12時21分の浜松行きにはどうしても乗らなければなりません。行き帰りに20分ちょっとかかるとして、私たちに許された「さわやか」タイムは1時間ちょっと。駅を出て、新静岡駅方面に急ぎ足で向かいます。

石原さん

青春っぽくちょっと道に迷いつつも、どうにか開店時間の11時を数分過ぎたぐらいにお店に到着。あれれ、すでに何組かのお客さんが椅子に座って順番待ちをしています。平日の午前中で、この混み具合。「さわやか」の人気っぷりを侮っていました。
カワノ君が発券機で受付をし、順番待ちのレシートをゲット。「発券時の目安案内時間 11:37」とあります。急いで注文して急いで食べて12時過ぎに店を出ることができるか……。微妙ですが、せっかくここまで来たんだから挑戦しましょう。可能性に賭けるのが青春です。

案内板
待ち時間の石原さん

それにしても常に行列が前提だけに、「さわやか」には極めてハイテクな順番待ちシステムが導入されていました。レシートのバーコードをスマホで読み取ると、待ち時間の目安と何組が待っているかが出てきます。店で座って待っていなくても、そのへんでぶらぶら買い物していてもぜんぜん大丈夫ですね。

看板

ハンバーグを全速力で食べ切る「さわやか」タイム。

おっ、11時20分の時点であと5分。当初の予想より早く順番が回ってきそうです。これは余裕で間に合うかも!

11時28分、ついに呼ばれました。席についてお水が運ばれて来るや否や、店頭のメニューを見て心に決めていた看板商品の「げんこつハンバーグランチ」を注文。250gのハンバーグに付け合わせの野菜、ライスまたはパンとランチスープが付いて1,188円です。
ちなみに、ハンバーグが200gとやや小ぶりな「おにぎりハンバーグランチ」は1,080円。一瞬、こっちでも十分かなと思ったんですけど、今日のテーマは青春だったことを想い出し、甘えそうになっている自分に喝を入れ直しました。

店内
げんこつハンバーグランチ

待つこと5分少々。店員さんの手で、鉄板に乗った「げんこつハンバーグ」が運ばれてきました。

なるほど、これは巨大!

言われるがままにテーブルに敷いてあった紙の端をつまんで持ち上げ、ソースのはね返りをガードします。ソースはオニオンソースとデミグラソースの2種類。メニューに「人気No.1」とあったオニオンソースを選びました。「淡路島産のたまねぎ しょう油ベースの和風ソース」です。
ソースをかけた瞬間に、鼻孔どころか全身をくすぐるいい香り。ウットリしていたら、店員さんは「げんこつ」を真っ二つに切りわけ、鉄板に切り口を押し付けます。まさか、そうくるとは。まだ赤い色が残った切り口が、鉄板の熱で焼かれて「ジュワワワワ~」と歓喜の声を上げています。

ハンバーグの断面
外観

憧れていた「さわやか」のハンバーグが、ついに口の中に。おお、肉々しい!そしてジューシー!さらに牛肉の濃い旨味がぎっしり!これは大行列ができるのも無理はありません。店内のつくりがファミレスっぽいところも、迫力たっぷりのハンバーグの魅力をさらに引き立てています。穏やかそうで日常的な皮をかぶった荒ぶるオオカミ、じゃなくて牛。

残念ながら、じっくり優雅に味わっている場合ではありません。全速力で食べ切って、店を出ます。店員さんによると、今日はまだすいているほうだとか。天は私たちに味方してくれたようです。店を出たのは12時03分。来るときと同じやや迷い気味のルートだと、間に合わないかもしれません。もっと近道があるはず。それは、どこにあるのか。
焦りつつエスカレータを待つ私たちの前に、比喩ではなく、本物の天女がふたり舞い降りてくれました。さすが「三保松原」がある静岡市です。ふたりの天女は、私たちにどんな幸せをもたらしてくれるのか。ともかく急げ。そうこうしているうちに、あと15分だ!

――至福の第五回につづく。

店舗情報店舗情報

炭火焼きさわやか 新静岡セノバ店
  • 【住所】静岡県静岡市葵区鷹匠1-1‐1 新静岡セノバ5階
  • 【電話番号】054‐251‐1611
  • 【営業時間】11:00~21:00
  • 【定休日】なし
  • 【アクセス】JR「静岡駅」より15分、静岡清水線「新静岡駅」より5分

文:石原壮一郎 写真:阪本勇

石原 壮一郎

石原 壮一郎 (コラムニスト)

1963年、三重県松阪市生まれ。大学時代に作成したミニコミ誌が注目を集めたことをきっかけに、雑誌編集の道に進む。1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でコラムニストデビュー。シリーズ累計50万部を超す大ヒットとなる。以来、日本の大人シーンを牽引。2004年に上梓した『大人力検定』(文芸春秋)も大きな話題を呼び、テレビやラジオ、ウェブ、ゲームソフトなど幅広い展開を見せた。2012年には「伊勢うどん友の会」を結成し、2013年に世界初の伊勢うどん大使に就任。2016年からは松阪市ブランド大使も務める。近著に『思い出を宝ものに変える 家族史ノート[一生保存版]』(ワニプラス)、『本当に必要とされる最強マナー』『大人の人間関係』(ともに日本文芸社)などがある。