七皿目は肉そぼろと春雨の唐辛子旨煮。現地では「肉未粉絲(ロウモフェンスゥ)」という。手塩にかけて育てている豆板醤のコクと挽き肉の旨味を吸った春雨と赤い油が食欲を猛烈に刺激する。ひと口食べたら……大至急、ご飯くださ~い!
「豆板醤を使った赤い油がファ~っと広がって、春雨がその油をバッと吸って、噛みしめると肉そぼろの旨味が口中にワッと広がる。完全にご飯のおかずですね。うちのグランドメニューですし、現地でも高い値段の料理ではなく、日常的に食べられています」
「四川家庭料理 中洞」店主の中洞新司(なかほらしんじ)さんが思い入れある料理の一皿としてそう語るのは、「肉そぼろと春雨の唐辛子旨煮」である。
店では、油がよく絡む細い緑豆春雨を使っているが、現地では幅広の太い春雨を使う店もある。これもまた日常のおかずであるがゆえに個性はさまざまだ。
味の決め手は、フツフツと泡が立つ、まさに発酵真っ最中の豆板醤を使うこと。
3種の豆板醤を混ぜ、清酒を注ぎ、毎日「おいしくなぁれ」と念じながらかき混ぜる、“祈りの豆板醤”である。
塩気よりもコクが深く、旨味調味料を加えずとも奥深い旨味が広がる。熱した油に、ねぎ、にんにく、生姜、唐辛子を炒め、肉そぼろと春雨を投入して煮る、というごくシンプルな調理法だというのに。
「四川出身のお客様が『地元よりおいしい!』と言ってくださったこともあります」と中洞さん。
これが、激しくご飯を呼ぶ。
旨味を吸った春雨を豪快にご飯に乗せる。気取ってちゃいけない。大きめのひと口でもりもり頬張る。
啊!感到幸福……!(ああ!幸せ……!)
――明日につづく。
文:沼由美子 写真:森本菜穂子