四皿目は乳酸発酵の漬物。箸休めの漬物は、辛い料理を食べた後にぴったり。四川省では、「泡菜(パオツァイ)」といい、特有の酸味を生かして、料理とともに頬張って“味変(あじへん)”を愉しむという手も!
「四川家庭料理 中洞」店主の中洞新司(なかほらしんじ)さんは、今回、紹介する十皿の料理についてこう語る。
「四川のどの店に行っても絶対あるものばかりです。なんなら自分でつくれる。でもすべての料理が現地の味のまんまではなく、僕ならもう少しこう変えるな、という思ったことを実行した料理です」
麻婆豆腐、塩熟成豚バラの山椒香り炒め、黒酢と辣油のサンラーメンに続いて紹介するのは、一見、なんの変哲もない漬物。
日本の家庭の食卓にも、定食屋にも居酒屋にだって、どこにでも並んでいそうな見慣れた佇まいである。
中洞さんは、その魅力を熱を込めて語る。
「僕にとっては梅干し以上に、いつも食卓にあって当たり前の存在です。現地で炒飯を頼むとこの漬物が必ず付いてくるんです。これがうれしくて!水と塩のみで漬ける乳酸発酵の漬物で、シンプルなんですが、一からつくっている店は意外と少ないんです。現地でも炒飯に添えてあるだけじゃなく、盛り合わせにして単品で頼むこともできます。最初に頼んで、最後まで残しておいて途中の料理や〆の炒飯に合わせるのもいいと思います。口直しであり、調味料的な役割も果たしてくれるんです」
中洞さんは、2018年8月に自身の店を開くとき、「清潔感はあるけど、上品すぎるのではなくすっと馴染める。でも家とも違う」という空間にしたいと考えた。
自家製の乳酸発酵の漬物は、まさにそんな考えを象徴しているよう。
自身の好きな十皿のうちに、素朴でごく日常的な漬物を入れるあたりにも、中洞さんの姿勢が表れている。
――2019年7月22日につづく。
文:沼由美子 写真:森本菜穂子